■詩人・蜂飼耳
(1)『カヨと私』(内澤旬子 本の雑誌社)
(2)『永遠年軽』(温又柔 講談社)
(3)『スピノザ 読む人の肖像』(國分功一郎 岩波新書)
(1)はヤギとの生活を記す文章が、人間とはどういう生き物なのかをあぶり出す。動物との関係を容赦なく見つめる独自の視点による書。(2)は国籍や民族や歴史等の要素と、いまを生きることの困難や葛藤が結び付き、普遍的で深い視野を獲得している小説集。(3)は17世紀の哲学者スピノザが徹底的に「読む人」だったというイメージを基底に展開される。記述も構成も読みやすい。新鮮で感動的な成果だ。
■作家、エッセイスト・平松洋子
(1)『超訳 芭蕉百句』(嵐山光三郎 ちくま新書)
(2)『ミシンと金魚』(永井みみ 集英社)
(3)『私がつかんだコモンと民主主義』(岸本聡子 晶文社)
(1)「旅する者の力が問われる」「古典文学は足で読む」……自身に課題を与え、百句を現場検証、新たに芭蕉を読み解く一大労作。旅の足跡や人間関係まで分析、その隠れた本性を引きずり出す。(2)いっそ残酷なほど老女の内面を露わにし、老いの語りを文学に昇華させる。あまりに鮮烈で衝撃を受けた。(3)新・杉並区長による、欧州での移民体験や市民運動から学んだ「下からの民主主義」の提言。
■文芸評論家・細谷正充
(1)『恋ふらむ鳥は』(澤田瞳子 毎日新聞出版)
(2)『爆弾』(呉勝浩 講談社)
(3)『銀狐は死なず』(鷹樹烏介 二見書房)
(1)は、額田王を主人公にした、重厚な歴史小説。有名な万葉歌人である額田王を、激動の時代の中で仕事に奮闘する女性とし、新たな人物像を創り上げた。(2)は、ミステリー。サスペンスに満ちたストーリーの果てに、現代の日本人が抱える、やりきれない心が浮かび上がる。(3)は、アクション小説の快作。肉体と銃による壮絶な闘いに、血が滾(たぎ)った。今後の作者の活躍を、大いに期待している。