またひとつ風を起こして風天忌
風天忌とは、フーテンの寅さん、渥美清の命日(8月4日)のこと。映画好きな著者の心情がにじんだ句である。
本書は俳句100句と短いエッセー41本で構成されている。幼少期から現在に至るまでの体験が、文学、仕事(薬剤関係)、映画、句作の四つに分けて綴られる。出会った文学者たち、黒井千次、津島佑子、秋山駿、河野多恵子、藤本義一らのエピソードをはじめ、「薬学と俳句」「映画と俳句」といった興味深い項目もある。
らくだらくだ真夏の夜のひとりごと
怒りんぼう淋しんぼうかも秋の雲
全編通じて、飾り気のない素直で明るく温かい文章が活き活きと躍っている。楽しみに満ち、幸福感に包まれたような一冊。
※週刊朝日 2017年12月22日号