第65回グラミー賞でジャズシンガーとして12年ぶりの「最優秀新人賞」「最優秀ジャズ・ヴォーカル・アルバム賞」を受賞したサマラ・ジョイが語る。若いリスナーに伝えたいジャズの魅力とは。AERA 2023年5月1-8日合併号より紹介する。
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16歳のとき、学校のコンサート用に結成したバンドで歌ったのがジャズでした。「アイ・レット・ア・ソング・ゴー・アウト・オブ・マイ・ハート」というデューク・エリントンの曲で、この曲を歌うまではジャズというものを意識したことはありませんでした。
それまで歌ったり、聴いたりしていた音楽とは全然違って、どこかへ連れていかれるような感覚。それでいて懐かしさや居心地の良さもあって、もっと知りたいと思いました。
両親が1960年代生まれで、祖父母と父がゴスペルシンガーです。子どもの頃は家で60~70年代の音楽がよくかかっていて。「オールディーズ」というのかな、サウンド的にはジャズとは違うけど、しっくりくるものがありました。グラミーで二つの賞を受賞したことが信じられないんです。いまだにシュールというか、非現実的。ずっと憧れていたミュージシャンが自分をサポートしてくれたり、コラボレーションしたいと言ってくださったり。
まだ23歳で、「ティックトックの人気者」とか「Z世代のスター」と呼ばれ、期待されていることも自覚しています。若いリスナーにジャズの魅力を伝えること、それと同時に伝統を引き継いでいくこと。そうした役割を担っていることもわかっているし、「ジャズだけをやるべきではない」とかいろんなアドバイスももらうんです。でも、プレッシャーに感じたことはありません。そうした声を知ったうえで、一人の人間としての成長を一番に考えていく。それがシンガーとして長く続けていく一番の方法だと思っています。
ジャズって、今でこそ「年寄りの音楽」だなんて言われることもあるけど、もともとは若者の音楽なんですよ。ディジー・ガレスピーやチャーリー・パーカーが(自由な即興演奏が特徴の)ビバップでジャズの世界を一変させたときは20代でした。「グレート・アメリカン・ソングブック」といわれるスタンダードな楽曲があるなか、自分たちの解釈でジャズと呼ばれるものにした。ジャンルを作りながら、ジャズそのものが持つ可能性を変え続けてきました。
オープンな心で、ほんの少しでいいので、時間をかけて聴いてみてください。そしてゆっくり自分の生活の一部に取り入れてみてください。一曲でもいいし、一枚のアルバムでもいいし、一人のアーティストでもいい。そうやって自分のなかに入っていく音楽がジャズなんです。
(構成/編集部・福井しほ)
※AERA 2023年5月1-8日合併号