全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年5月1-8日合併号にはイミュー 代表取締役の黒田康平さんが登場した。
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野菜、魚、肉。日本にはその土地ならではの豊かな食材があふれている。ただ、いいものが必ず売れるとは限らない。「生産者に必要なのは、マーケティング視点のサポートです。いいものが、いいものとして売れれば地域経済は発展します」
着目したのは、地域の特産品が返礼品になることが多いふるさと納税だ。どこの自治体の何という特産品なのか。消費者にしっかり認知してもらい、ファンになってもらうための仕組みを作る。最終的にはふるさと納税の寄付に依存するのではなく、事業者自身で販路を拡大していけるようにするのが目標だ。
「地域に根を張り、日本を興したい」。入り口となる自治体への交渉は思いを手紙で伝えることから始めた。関心は高かったものの、寄付についての現状や課題を認識し、分析している自治体はほとんどなかった。
そこで、寄付してくれた人の継続率などを分析するシステム「ふるさとリピートマップ」(特許出願済み)を開発。現状や課題を可視化し、3年連続で寄付をしてくれるリピーターを増やすための戦略設計に役立ててもらう。
現在支援している自治体は全国で10自治体以上にのぼる。そのうち、北海道白糠町とは地元漁協ともタイアップし、サケやブリのブランド開発をスタートした。寄付者への返礼品に充て、感想や意見を次回以降の商品化に生かしていく。
こういった取り組みを実行できるのは、自ら足しげく地域に通い、事業者がどんなことで困っているのかを細かく聞き取る姿勢を貫いているからでもある。
「地域の人たちにとって僕たちはまだ『東京のよくわからないマーケティング会社の人』かもしれません。でも、必要とされているのは感じる。最終的にイミューという会社があってよかったね、と言ってもらえる関係を築きたいですね」
日本の食に注目したのは、かつてメキシコで日本酒を売り込む仕事をした経験が大きい。「日本には世界で戦える産品がまだまだたくさんある」。日本を離れたことでそう感じることが度々あった。
「地域×食×IT」の力で生まれた良いブランドが資金と人を集め、地域経済を回していく。そんな未来を思い描いている。(ライター・浴野朝香)
※AERA 2023年5月1-8日合併号