内容は大きく二つに分類される。一つは現代短歌や百人一首などの案内・入門的な読み物。もう一つは「歌」に関連して、時代と本と人と自身を語った随想風なものだ。

 学生時代、全共闘運動に関わった著者の第1歌集『無援の抒情』に共通する一貫性が各編の随所に表出している。安保反対、愛と革命、学園闘争、広島、沖縄……。短歌を引用しつつ政治・社会情勢に関心を寄せる。

 当然のことながら、女性らしさがちりばめられた文章もある。戦争と母親を重ねた回想、着物や宝飾品について、与謝野晶子に寄せる思いなど。そこには五七五七七の三十一文字の作歌に込める凝縮した生存表現の実像が込められていて、真に迫る。「歌」の豆知識から「人生哲学」まで、さまざまな読み方ができる一冊である。

週刊朝日  2017年6月9号