《HEY JOE》
《HEY JOE》
ジミ・ヘンドリックスが、ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの名義で最初のシングルを録音したのは、1966年10月下旬。1942年シアトルで生まれた彼は、サム・クックやアイズリィ・ブラザーズなどのバックで経験を積み、グリニッジヴィレッジで試行錯誤を重ねたあと、ロンドンに渡っているのだが、それからわずか一ヵ月後のことだった。
アイズリィズの《テスティファイ》などである程度のスタジオ作業を体験していたとはいえ、自分がメインのレコーディングはそれがはじめて。しかし、23歳の彼はそこで、ギターの素晴らしさはもちろんのこととして、女声コーラスもフィーチュアした深みのあるサウンドや堂々たるヴォーカルなどによって、明らかに時代の先を行くものを示していた。イギリスでは同年末にリリースされているのだが、それは、ディランの『ブロンド・オン・ブロンド』やビートルズの『リヴォルヴァー』、ビーチ・ボーイズの
『ペット・サウンズ』などの傑作が相次いで発表された年を締めくくるのにふさわしい事件だったといえるだろう。
作者や原典に関しては諸説があり、何組かのアーティストによるヴァージョンが存在していた《ヘイ・ジョー》を、ジミは、ティム・ローズというフォーク系シンガーのレコードで知ったという。そして、ニューヨークのクラブなどで演奏するようになっていたのだが、ちょうどそのころ、アニマルズのベーシストだったチャス・チャンドラーが、彼を訪ねている(当時のキース・リチャーズのガールフレンドに勧められて、ということだったらしい)。マネージャー/プロデューサーとしての次の道を模索していた彼は、やはりティム・ローズ版《ヘイ・ジョー》に興味を持っていたそうで、二人の出会いは運命的なものだったのかもしれない。初対面の日、強烈なギターでその《ヘイ・ジョー》のいわばロック版を聞かせるジミに彼は強い衝撃を受け、ロンドンに誘ったのだった。