ニューヨークの音楽仲間たちと別れてロンドンに向かうことの条件として彼は、すでにクリームとしての活動を本格的にスタートさせていたエリック・クラプトンと会わせることをあげたともいわれている。実際、「どこからともなく現れた」という印象であったに違いないジミは、到着後すぐ、クラプトンはもちろん、ストーンズやビートルズのメンバーたちも強く惹きつけることとなり、ともかくそのようにして彼は、スター・アーティストとしての第一歩を踏み出したのだった。

 ベースにはもともとはギタリストだったノエル・レディング、ドラムスにはジャズから多くを学んだというミッチ・ミッチェル。二人の若いイギリス人ミュージシャンとエクスペリエンスを組んだジミとチャス・チャンドラーは、当然の流れで《ヘイ・ジョー》をファースト・シングルに選び、すでに書いたとおり、66年10月下旬にレコーディングを行なっている。

 1弦と2弦で鋭角的に入り、5弦と6弦による太い輪郭の音に下がっていくイントロが素晴らしい。当時、あのイントロだけで未知の世界に引き込まれてしまったという人も少なくなかったはずだ。そしてCGADEを繰り返すシンプルなコード進行でざっくりとしたリズムを刻みながら、ジミはマーダー・バラッドとも呼べる言葉を豊かな表現力で歌っていく。中間部と終盤の完璧なギター・ソロ、半音進行のリフなどを、クラプトンたちは、挑戦状のように受け止めたに違いない。

 本連載の1回目に取り上げた《オール・アロング・ザ・ウォッチタワー》もそうだったが、よく聴くと、ジミがオリジナルに深い敬意を払い、基本的な部分は変えていないことがわかるはず。「大胆にロックに焼き直し」ということではないのだ。そのうえで自分だけのヴァージョンを築き上げていく姿勢が、ジミ・ヘンドリックスというアーティストの存在をさらにまた際立たせていたのだと思う。[次回6/7(水)更新予定]

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