暖かくなるとヤツらがやってくる。ゴキブリだ。すばしっこくてタフなヤツ。雑誌でひっぱたいたぐらいでは死なない。人類よりはるか前から地球にいて、人類滅亡後もヤツらは栄えているだろう。
本川達雄の『ウニはすごいバッタもすごい』は、昆虫や貝類、ナマコやホヤたちの体がいかにすぐれているかを教えてくれる。「すごい」にいささかの誇張もなく、「びっくり!」の連続である。
本書は無脊椎動物(背骨をもたない動物)のうち、棘皮動物門や節足動物門など五つの門の動物を取り上げる。棘皮動物門というのはヒトデやナマコなど。節足動物門は昆虫のほかエビ・カニなど甲殻類も含まれる。
昆虫の体表を覆う外骨格は、クチクラというものでできている。これがすごい。体をすっぽり包んで、内部を乾燥から守る。これによって陸を制覇。クチクラは軽くて丈夫なので、細くて強い脚や、薄くて広い羽にもなる。速く走り、高くジャンプし、空も飛び回る。陸に続いて空も制覇。
脚や羽を動かすメカニズムも秀逸だ。たんに筋肉で動かすのではなく、硬い体表をいかして梃子の原理を使うのである。少ないエネルギーで大きな力を発揮する。ぼくらがゴキブリにかなわないのも納得できる。
副題は「デザインの生物学」。動物たちの体が進化の過程でどうデザインされたかを解き明かす。置かれた環境のなかで、いかに効率よく食べ物を摂取し、いかにうまく身を守るかを優先した結果、あの素晴らしいボディを獲得したのだ。こんどゴキブリを見つけたら、「ナイス・ボディ!」と声をかけてやろう。
※週刊朝日 2017年5月26日号