
死をもって償うとはどういうことか
大森さんは最後に、「また来るね」と言って面会室を後にした。その3日後、白石死刑囚は刑に処された。
死をもって償うとはどういうことなのか。大森さんは答えのない問いを考え続けている。
「誤解を恐れずに言うと、白石さんが生きていた6月27日以前と以降で、世の中は何も変わっていない気がするんです。なぜそう感じてしまうかといえば、私にはご遺族の思いが見えないからでしょう。大切な家族が二度と戻ってこない現実の中で、白石さんの死刑はわずかでも救いになるのか。それが分かれば、死刑制度の是非について自分なりに判断できるかもしれない。でも、そんな非情な問いをご遺族に強いてはいけないので、生涯のテーマとして向き合うつもりです」
もうひとつ、大森さんの心に刺さっている“棘(とげ)”がある。白石死刑囚が9人もの命を奪った真の動機については、結局分からずじまいだったことだ。
白石死刑囚は「楽をしてお金を稼いで、性欲も満たしたかったから」と語っていた。だが被害者のうち1人は大学生、3人は高校生で、とても金銭目当てで狙う相手とは思えない。本人の人格に破綻がある可能性も考えたが、精神鑑定で障害は認められず、大森さんも接していて精神的な疾患を疑う場面は皆無だった。
「ごく普通の人に見える白石さんがなぜこんな事件を起こしたのか。理解できないのは、私の常識を白石さんに当てはめているからで、おかしいと思うこと自体がおかしいのか……。心の中にずっと、大きなハテナマークがあります。白石さんがいなくなっても、私の中でこの事件が終わることはありません」
(AERA編集部・大谷百合絵)
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