1月公表の地下水調査で環境基準の最大79倍のベンゼンが検出されるなど、いまだ安全性に疑問符がつく豊洲の新市場予定地。
『築地移転の闇をひらく』はこの件を早くから検証してきたメンバーによるシンポジウム(2016年10月9日)をもとにした本である。報告者は、東京中央市場労働組合執行委員長の中澤誠氏と、築地市場移転問題裁判の原告でもある1級建築士の水谷和子氏。先の都知事選の際にこの問題が公になるキッカケをつくった宇都宮健児氏の「まえがき」がつく。
小池百合子都知事が築地市場の移転延期を発表したのは8月31日。以後、盛り土はされていないわ建物の下に謎の地下空間はあるわ、豊洲の欠陥が次々明るみに出たのはご存じのとおり。石原、猪瀬、舛添と3代の知事はこの件とまともに取り組んでこなかった。〈築地市場移転問題は、石原都政が誕生してからの17年間の都政の体質が、典型的に表れた問題と言える〉と宇都宮氏はいいきる。
情報の隠蔽から移転先の豊洲の問題点まで、詳細に語られた本だけど、おもしろかったのは移転問題の根幹にふれた部分である。
そもそも東京ガスの工場跡地になぜ市場を移転するのか。〈都心にある利用価値の高い築地から市場を移したいというのがまずあると思います〉と水谷氏。一方の豊洲。〈あの土地は東京ガスにすれば、マイナス資産なわけです。あれだけの汚染があるのだから、売れることだけでも奇跡的なのに、汚染対策費用としてわずか178億円の投資で、1890億円で売ることができた〉。要は土地転がし的な話だったのか!
米騒動などの反省から中央卸売市場法ができたのは1923年。築地市場は公平で安定した食糧供給に寄与してきた。が、卸売市場そのものが危機に瀕している。〈本当に豊洲移転となったら100店舗はやめてしまうと思います〉と中澤氏。国の食糧政策は〈卸売市場の廃止まで視野に入っているようにも思えます〉。つまり市場の切り捨て策? どうりで移転計画が雑になるわけだよ。
※週刊朝日 2016年2月24日号