
日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「百日咳ワクチン追加接種の重要性」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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「咳が止まらない」「子どもが感染した」──いま、日本で百日咳が過去最大規模の流行を見せています。7月中旬には累計報告が 約5万2千件 [※1] に達し、2019年の年間最多(約1万7千件)をも上回る、緊急事態ともいえる規模です。感染の中心は10代の若者[※2] 。乳児の死亡例も[※3] 確認されており、深刻さを増しています。
私が現在暮らしているカリフォルニアでは、病院に行くたびに「Tdapワクチン(百日咳を含む追加接種)を接種しませんか」と勧められます。アメリカではCDC([※4] 米疾病対策センター)が、ライフステージごとに定期的な接種を推奨しており、学校や医療機関を通じて追加接種が社会的に定着しています。
乳幼児は生後2カ月から6歳までに5回、思春期の11〜12歳で追加接種、成人は10年ごとの追加接種、さらに妊婦は毎回の妊娠で接種を行うことになっています。つまり、「定期的な追加接種」が社会に組み込まれているのです。一方、日本では乳幼児期の4回接種以降は「任意」にとどまり、公的な推奨や支援は乏しい[※5] ままです。この違いが、現在の大流行の一因になっている可能性があります。
もっとも、米国でも「百日咳だけを狙った定期的な追加接種」までは推奨されていません。CDC[※6] によれば、Tdapワクチンによる免疫は数年で低下しますが、それを補うために繰り返し追加接種を打ち続けても、感染予防効果は限定的であるとされています。
したがって、免疫を維持するために繰り返し行う形での追加接種は推奨されていないのです。代わりに、妊婦への接種で乳児を守ることや、思春期・成人期での一定のタイミングでの接種といった、「戦略的な接種」に重点を置いています。