(写真はイメージ/GettyImages)
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アメリカでも流行は止められていない

 そんなアメリカでも流行は止められていません。24年には感染報告数が前年の約6倍に増え、3万5千件[※7] に達しました。25年もすでに1万件[※8] を超える勢いです。つまり、「制度が整っても流行は起こる」。

 その理由の一つは、現在主流のDTaP(ジフテリア・破傷風・百日咳三種混合/無細胞ワクチン)の免疫が数年で低下すること、そして百日咳菌が麻疹並みに強い感染力を持つことにあります。社会の予防の網にわずかな隙間があれば、一気に広がってしまうのです。

 しかし、追加接種には大きな意味があります。妊婦が接種すれば、生まれた赤ちゃんの感染は約8割減少、入院は9割減少、死亡もほぼ防げるとCDC[※9] は報告しています。思春期代での追加接種は感染自体を7割前後防ぎ、成人の[※10] 追加接種も、感染自体は完全に防げなくても、重症化や入院を大幅に減らす効果が確認されています。つまり、「百日咳の感染をゼロにはできなくても、追加接種があれば救える命がある」のです。

日本では初期接種後の追加は任意

 日本でも乳児期の初期接種はしっかり行われています。しかし、その後の追加接種は任意です。費用もかかってしまうため、追加接種率は低いままです。結果として免疫が切れてしまった10代が家庭や学校で感染源となり、最も守られるべき乳児にまで感染が広がる構造が放置されています。追加接種を任意とする日本の状況が、結果として悲劇を招いている現実があります。

 百日咳は「完全には防げない病気」です。けれども、追加接種を打てば重症化や死亡を大きく防ぐことができる病気です。けれども、日本では、制度が整っていないために、乳児が命を落とす流行が繰り返されています。

 この状況を「しかたない」で済ませていいのでしょうか。守れるはずの命を失わないためにも、追加接種の制度化や公的支援を急がなければならない時にきているのではと思います。

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