Bさん 吉沢さんと横浜さん、2人の気迫みたいなものが役の説得力につながっていて、まるで生の舞台を見ているような感覚で私は見ていました。

Aさん 2人の努力はもちろんですが、第一に全体に違和感がないのはディテールの完成度の高さだと思います。美術監督が種田陽平さんということで期待も高かったですし。劇中に登場する劇場にほとんど行ったことがあるので「これは南座だな」「京都のかぶれん(歌舞練場)だな」「国立劇場だな」とわかったのですが「日乃本座」だけはどこだかわからなくて。あれは滋賀県にある旧琵琶湖ホテル(現・びわ湖大津館)なんですね。中はセットだったわけですが、セットだと全くわからないほど作り込まれていました。

Bさん 大津館は歌舞伎座の外観にすごく似ているんですよね。同じ設計事務所が手がけられているそうで。

Aさん そうなんです。歌舞伎座をちょっとミニサイズにした感じ。ただ歌舞伎のシーン、舞台上はそんなに違和感はないんですけど「お客さんってこんなにおとなしく見ているか?」とはちょっと思いました。もちろん演出上のものだと思いますが、歌舞伎ってもっと声掛けがすごいので。

――歌舞伎ファンとして、各演目や踊りについてはいかがですか?

Aさん もうあちこちで言っているんですが、私、演目を全部フルで見たいんです。「もしそれをやるとすると上映時間が4時間半で料金が5000円になる」といううわさがまことしやかにささやかれているんですが、5000円以上出しても4時間半で見たいです!  劇場でなくても登場演目を全部カットせずにDVDやブルーレイで収録してくれたら、3万円でも出します!

Bさん 私も買います!  この間、俊介の子ども時代を演じていた越山敬達さんが、「1曲の踊りをまるまる練習したんだけど10秒くらいしか使われなかった」という話をどこかでされていて、すごく努力をされたのに本当にもったいない!って思います。

Aさん 渡辺謙さんが演じられた「連獅子」は逆に「差し替えじゃないんだ」とすごさを感じました。頭を振り回す「毛振り」、あれは首で回すのではなく腰で回すものなので、かなり腰にも体にも負担がかかったと思うんですよね。それに歌舞伎のなかでも上方歌舞伎、しかも女形だけに焦点を当ててそこに特化しているのはかなり特殊でおもしろいなと思います。例えば「曽根崎心中」のお初は2020年に亡くなられた(四代目)坂田藤十郎さんがほぼ独占してやっていた役なので、他の役者さんがほとんど演じていないんです。

Bさん 吉田修一さんが中村鴈治郎さんについて黒衣をされていた、というのもあるんですか。
Aさん そこにつきますね。おそらく吉田先生が黒衣になっていたときは藤十郎さんがまだご存命で、その姿を近くで見られたのかなと思います。だからこそあの描写ができたのかなと。「曽根崎心中」は2015年に藤十郎さんが博多座で公演されてから、数えるほどしか上演されていません。「曽根崎、どうするんだ問題」というのがここ10年ほどのファンの話題で、その潜在的な盛り上がりのなかで今回の「国宝」があったんです。

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