遊佐学さん(撮影/國府田英之)
遊佐学さん(撮影/國府田英之)

俺だけじゃないんだ

 出所後、出合った本の人物ではないが、覚醒剤に溺れた元ヤクザで、受刑者らの社会復帰支援をしている進藤龍也牧師が運営する教会の存在を知って足を運んだ。そこには、自分と同じように人生をやり直したいと願う、元ヤクザや元受刑者たちがいた。

「俺だけじゃないんだ」。差別も偏見ももたれず、心の内を話せる仲間がいることを知った。

 洗礼を受けてクリスチャンになった。先輩が経営するラーメン店やグループホームで働くうちに、ヤクザ時代には味わうことができなかった仕事のやりがいを自然に感じられるようになった。

「夢や目標を一度も持てなかった自分が、ちょっとずつ変わっていったんだと思います」

「かつての自分」を支える側に

「こんな俺」でも変わることができたのだから、かつての自分のような若者を支える側に立ちたいと、少しずつ動き始めた遊佐さん。2022年の8月9日、かつて飛び降りたのと同じ日に、元受刑者らを支援する一般社団法人「希望への道」を立ち上げ、本格的な活動に入った。

 飛び降りたあの日から20年。自立準備ホームの運営は資金的にもギリギリで、先行きも見通せていない。それでも、遊佐さんの表情は明るい。

「若いころは悪さも遊びも楽しかったけど、幸せではなかった。今は、あのころの楽しさはないけど、とても幸せなんです。朝起きて雨戸を空けて太陽の光を浴びたとき、幸せだなあって思うんですよ」

 昨年、3度目の結婚をして、この9月に遊佐さんにとって初めての子どもが生まれる。

「俺が父親になるなんて。人生って不思議ですよね」

 人生をやり直そうと生きる若者たちを支えながら、「こんな俺」の人生第2部も、まだまだ続いていく。

(ライター・國府田英之)

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