たきがわ・くりすてる/1977年、フランス・パリ生まれ。フランスと日本を行き来しながら育つ。現在はフリーアナウンサーとして活躍。2013年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ、18年に国家功労勲章シュヴァリエを受章(hair&make up:野田智子/costume:CELFORD/撮影:写真映像部・佐藤創紀)
たきがわ・くりすてる/1977年、フランス・パリ生まれ。フランスと日本を行き来しながら育つ。現在はフリーアナウンサーとして活躍。2013年にフランス芸術文化勲章シュヴァリエ、18年に国家功労勲章シュヴァリエを受章(hair&make up:野田智子/costume:CELFORD/撮影:写真映像部・佐藤創紀)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

 『本当の赤ずきん こどもは読んではいけません』は1697年にフランスで出版された、シャルル・ペロー版の「赤ずきん」をフランスのイラストレーター・児童文学作家のフィリップ・ジャルベールが再解釈し現代に蘇らせ、滝川クリステルさんが日本語版を翻訳。2児を子育て中の滝川さんは、一人の時間を捻出するべく朝早くに起き、翻訳に取り組んだ。「キャラクターそれぞれの話し方やリズムをつかめるようになってからは、『翻訳って楽しい作業だ』と思えるようになりました」と語る。滝川さんに、同書にかける思いを聞いた。

*  *  *

 赤ずきんとオオカミ、それぞれの強い意志を感じさせる眼差しに思わず目が釘付けになる。赤と黒だけで表現される、スタイリッシュかつ繊細なタッチに「絵本」という概念がいい意味で崩れていく。

『本当の赤ずきん──こどもは読んではいけません』は、滝川クリステルさん(47)が初めて翻訳を手がけた絵本だ。

「表紙を見ただけで、『やってみたい』という気持ちになりました。フランス人の著者による独特な感性やタッチが素晴らしく、リビングに置いても素敵だろうな、と。大人も子どもも楽しむことができる作品だなと感じました」

 同作は、日本で広く親しまれている「グリム童話集」に収録されている「赤ずきん」とは異なり、17世紀にフランスで出版されたシャルル・ペローの作品が元となっている。大人の言いつけは守らなくてはいけない、見知らぬ人についていってはいけない──。物語が放つメッセージは普遍的でありながら、赤ずきんとオオカミ、それぞれの目に映る世界が同時進行で展開されている。想像力を掻き立てられるラストも秀逸だ。

「突き放すような終わり方で『ああ、こうきたか』と」

 同作の赤ずきんは「オオカミに食べられそうな、かわいそうな子」では決してない。そこに、面白さを感じたという。オオカミだけでなく、女の子もまた、何かを企んでいるように見えた。

「怯えるような感じもなく、『何かに挑もう』とさえ思っているような顔つきで、その表情がとても気になりました。『私、やられないし』という心の声が聴こえてくるようでした」

 アナウンサーという「言葉」を大切にする仕事に長く携わってきた。だが、言葉一つ一つに丁寧に向き合い、限られた文字数に訳を当てはめていく作業は想像以上に難しく、「翻訳を甘くみていたな」という気持ちにもなった。フランス語ならではの言い回しは崩さず、意訳しすぎない。それだけは死守したつもりだ。

 翻訳を手がけていた頃、自身の長男は5歳になったばかり。「見知らぬ人についていってはいけない」と教えなければと思い始めた頃だった。

「どこまで本当のことを伝えるか難しいところはありますが、映像などリアルなものはあまり見せたくない、という気持ちもあります。そんなとき、絵本は世の中について教えることができる最高のツールにもなり得ると思うんです」

 家庭では、毎晩の絵本の読み聞かせは夫の役割となっているそうだ。

「息子は『パパはフランス語がわからないから、フランス語の本はママが読んでねー』なんて言っています(笑)」

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2025年8月11日-8月18日合併号

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