
安心して長期滞在へ静かな「STAY」を食事なしで安くする
2003年10月、39歳で社長になった。若くしてトップを継いだのには、それまでは「大人たち」の議論についていけばよかったが、「もう自分たちの番だ」と思ったからだ。『源流』からの流れが、新たな時代へ向かっていた。
2016年4月の熊本地震では大分県でも被害が出て、由布院も余震が続き、客足が止まる。「大人たち」も1975年に大分県中部地震に見舞われ、宿泊のキャンセルが続く。知恵を集め、立て直しに辻馬車を導入して音楽祭を始めた。辻馬車は、欧州視察で観た「平和の象徴」だった。
自分たちも余震のなか、何をしていくか次世代も含めて話し合い、近くの熊本県の黒川温泉と一緒に「あるべき温泉地の姿」を考えた。
玉の湯の近くに昨年1月、滞在型ホテル「STAY 玉の湯」を開く。訪日外国人で賑わう地域と逆側だ。温泉旅館のような食事はなく、買ってくるか外で食べる。そのぶん、宿泊料金は安い。静かな温泉で、ゆっくり体を労う。介護の資格を持つスタッフがいて、近隣の医療施設とも連携し、高齢者が夫婦でも一人でも、安心して長期滞在できる。その趣旨は、禅宗の保養施設として始まった歴史と重なる。
湯の坪街道はいま、インバウンド客であふれ、多くが夕方にはバスや電車で温泉街がある観光地などへ向かう。かつてみた状態の再来に「自分は何と成長していないのか」と心が沈んだが、諦めない。
こう、決意した「STAY」は、由布院一つで終わらせない。日本各地の温泉に同じ価値観の「STAY」をつくろうと呼びかけ、人々に健康の維持や回復のためにもきてもらう。もう大丈夫、視点は定まった。
いま、全国2600ほどの宿が加盟する日本旅館協会の会長だ。発信力は大きい。ときに浮かぶ迷いや弱気は、吹き飛ばす。100年単位で「まち」の在り方を考え続けるなか、由布院の「大人たち」の会話から生まれた『源流』からの流れは、全国へと向かう。(ジャーナリスト・街風隆雄)
※AERA 2025年8月11日-8月18日合併号
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