
作家・朝比奈秋さんの著書『植物少女』。この物語は朝比奈さんが医学部生だったころに出会った植物状態の方の記憶と共にある。
朝比奈さんは『一冊の本』の巻頭随筆で、『植物少女』の出発点を鮮明に、大切に思い返している。
『植物少女』を通して、朝比奈さんは何を思ったのか。朝比奈さんにとって、そもそも「物語」とは何なのか。
朝比奈秋さんが朝比奈秋さんをじっくり深く掘り下げていく……。
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植物状態と、受け手としての自分
ちょうど三年前、三作目にあたる『植物少女』を書き終えた。いつも何を書いているかよくわからないままに、とりあえず書きはじめるタイプだ。結末もわからないまま書いていくと、いつのまにか最後までたどりついている。
小説を書きはじめたころは物語をコントロールしようとしたこともあったが、今はそんなことはまったく思わない。物語自身に任せて大丈夫だ。収まる所に必ず収まる。その物語にもっともふさわしい形がもともと決まっている。
多くの作家がそうであるように、書き終わって時間が経ってから、ようやくいろいろなことがわかってきたりする。たくさんの本を読み、そこから書きはじめる人もいれば、人生の経験から書きはじめる人もいる。私は後者だから、物語の建物などはけっこう心当たりがある。現実の体験と物語は登場人物も違い、行きつく先もまったく違うが、ただ雰囲気などはどことなく見覚えがあるものだ。