(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
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 「劇場版『鬼滅の刃』無限城編」が公開10日間で興収128億円を突破し、社会現象といえるほどのムーブメントを起こしている。同作では最強の柱・悲鳴嶼行冥の冒頭のシーンも印象的だ。その頼もしい背中には鬼殺隊隊士たちから絶大な信頼が寄せられる。

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 しかし、誰からも尊敬される人物であるにもかかわらず、悲鳴嶼は自分の過去に苦悩を抱えていた。新刊「鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論」を著した植朗子氏は、著書の中で悲鳴嶼が抱えるトラウマと、彼が戦う理由について言及している。同書から一部を抜粋変更してお届けする。

【※以下の内容には、既刊のコミックスおよび劇場版のネタバレが含まれます。

*  *  *

■■悲鳴嶼さんのトラウマ

 現役の「鬼殺隊最強の剣士」として、誰よりも信頼のあつい岩柱・悲鳴嶼行冥。クセの強い「柱」たちをまとめ上げる手腕は見事なものです。彼なくしては、鬼殺隊は鬼との最終決戦に臨むことすらできなかったでしょう。しかし、〝悲鳴嶼さん〞の本当の姿は、優しく、気弱で、を愛する、剣士らしからぬ人でした。

 両親と兄弟を亡くし、寺で育てられた悲鳴嶼さんは、乳児期に高熱によって視力を失っています。その後、貧しい生活を余儀なくされますが、そんな日々の中でも、彼は身寄りのない子どもたちを育てようと懸命に努力していました。

「皆 血の繋がりこそ無かったが仲睦まじく

お互いに助け合い 家族のように暮らしていた

私はずっとそのようにして 生きていくつもりだった」

(悲鳴嶼行冥/16巻・第135話「悲鳴嶼行冥」)

 この悲鳴嶼さんの平穏な日常は鬼の襲撃によって一転します。寺にいた8人の子どもたちのうち、7人は鬼に殺されてしまいました。自分の後ろに隠れて震えていた、一番小さな女の子・沙代(さよ)だけはなんとか守ることができましたが、朝になって、子どもたちの痛ましい遺体を発見した人たちに「幼児殺し」を疑われ、救った少女からねぎらわれることもなく、彼は投獄されてしまいます。しかも、寺に鬼を引き入れたのも、ともに暮らしていた子どもの1人でした。

■■悲鳴嶼さんの猜疑心と苦悩

 人は弱い、子どもは自分のことしか考えられない、善良な人間も危機の時に本性が出てしまう……そんなことをつぶやき、憤りと悲しみを滲ませながらも、悲鳴嶼さんは、か弱い者たち、子どもたちを見捨てることができません。

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