
政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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自民大敗という今回の参議院選挙の結果、リベラル、保守、極右などが混在するデパートのような包括型政党としての自民党優位の時代が終わったと言えます。代わって自民党は、石破茂首相の言葉を使えば、「比較第1党」になったわけで、この言葉が今後の政界のキーワードになるでしょう。それは、ある意味で55年体制へと収斂する保守合同以前の状態に戻っていると言えなくもないでしょう。
自民党誕生以前の第1次、第2次鳩山内閣は、事実上、比較第1党の民主党政権でしたが、多党化の政党力学の中で自由党などとの連携に苦慮し、党内では旧改進党系との派閥抗争を抱えていました。現在の石破政権を見ると、あたかも民主党時代の鳩山政権の揺らぎを見ているようです。ただ、当時と違うのは、鳩山一郎は絶大な人気があったのに、石破首相にはそれがないことです。とは言え、今回の選挙で反石破=反保守=右派的な政治家が軒並み落選しました。それは包括型政党の分解過程を意味しており、ある意味で右派的な勢力を放出した保守の「純化」が起きたとも言えます。
日本では保守と極右との区別が曖昧ですが、海外の主要なメディアは、参政党などを極右政党と名付けており、自民党内の右派勢力に飽き足らない有権者そうした新興政党支持に回った可能性があります。また、無党派層の中にはそうした右派のカラーの強い自民党の政治家を敬遠した人がいたとも言えます。
今後、石破首相が、鳩山一郎元首相のように粘り続けて続投するのか。それとも、節目で退陣し、新しい総裁が選ばれるのか。その場合、保守系の勢力を結集した総裁か、それとも右派勢力を糾合した総裁かで、政界再編の動きが激しくなってくるでしょう。後者の場合、参政党などとの連立やパーシャル連合もありえます。それは、フランスの右派政党の国民連合が、同じくドイツの右派政党のドイツのための選択肢が、政権を獲得する場合に等しい衝撃を与えるはずです。それが、日本の国益になるのかどうか。いずれにしても「保守か、それとも右翼か」、この二者択一を迫られつつあるところに日本の政治の選択の幅の狭さが表れています。
※AERA 2025年8月4日号
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