
日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「隠れ脱水」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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「脱水」と聞くと、高齢者や乳幼児を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、活動的で健康や体力に自信のある若者こそ、かえって気づきにくい“隠れ脱水”に陥りやすいのです。のどの渇きを感じないまま、知らず知らずのうちに体内の水分が不足している……そんなケースは決して珍しくありません。
私自身もそうでした。以前は水をあまり飲まず、日常的に口にするのはカフェラテがほとんどで、飲んでも食事時にお茶をほんの少し。コーヒーやお茶には利尿作用があることは知っていても、「喉が渇かないから、まあ飲まなくてもいいだろう」とどこかで油断していました。
アメリカ・サンディエゴに移住してから、そんな意識に変化が訪れました。こちらの夏は気温こそ高くなるものの、空気はカラッと乾燥しています。汗をかいてもすぐに蒸発してしまうため、体から水分が抜けていてもそれに気づきにくい。日本にいた時よりも頻繁に喉の渇きを自覚するようになり、「もしかして水分が不足しているのでは」とようやく気づいたのでした。
日本にいた頃の高温多湿の夏ももちろん暑かったのですが、外にいるのは移動時くらいで、1日の大半を冷房の効いた室内で過ごしていました。そのため、汗をかく機会は少なく、喉の渇きを感じることもあまりありませんでした。しかし、そうした「快適すぎる」環境こそが、静かに脱水を進行させていたのかもしれません。
涼しい室内ではのどの渇きが感じにくい
実際、冷房の効いた涼しい室内では、体が脱水状態にあってものどの渇きを感じにくくなることがわかっています。2010年に発表されたレビュー論文では、涼しい環境下では体内の水分が減っていても“渇き”を感じるまでに時間がかかると報告されています(Kenefick et al., Nutrition Reviews, 2010)。つまり、快適さがかえってリスクを見えにくくしているのです。