次に、観察から得られた情報を元に、「ユーザーが本当に感じている課題」を言葉にしてみることです。多くのビジネスパーソンは「売上が足りない」「アクセス数が増えない」といった企業目線の課題設定に慣れていますが、UXの視点では「ユーザーが感じている期待と不満のギャップ」に目を向けます。これを丁寧に言葉にして共有し、「では、それはなぜ?」と徹底的に深堀りしていくことで、チームの議論は大きく変わるはずです。

 また、どんな現場でも試せるUX的アプローチとして、「仮説→検証→改善」というサイクルを小さく素早く回すことを意識しましょう。最初から完璧なプロトタイプやプレゼン資料を作る必要はありません。簡単なスケッチやプロトタイプをつくり、素早くチームやユーザーに見せてフィードバックを得る。このサイクルを何度も繰り返すことで、本当に価値があるものへ近づくことができるでしょう。本書はワークブック形式になっていますので、ぜひさまざまな方にチャレンジしてほしいと思っています。

 いまFigmaや生成AIなどが注目されていますが、技術やツールはこれからも常に変わっていきます。しかし、『誰のために、何をつくるか』という問いの本質は、いつの時代も決して変わらないはずです。この問いに対する答えをどれだけ深く掘り下げられるかが、UXの本質だと思います。

 UXという言葉を難しく考える必要はありません。日常の仕事のなかで「ユーザーにとって本当にインパクトのある課題は何か」を考え、その問いをもとに行動を積み重ねる。それだけで、プロダクトの価値は着実に高まっていくでしょう。デザインが開かれ、誰でも手を動かせるようになった今、プロダクトの価値を高めるためにできることは、すぐそばにあると言えるでしょう。

小林秀彰、宮﨑俊太郎、株式会社たきコーポレーション著『FigmaではじめるUXデザイン入門:アイデア発想から実践まで、デジタルプロダクト制作のためのワークブック』(朝日新聞出版) https://www.amazon.co.jp/dp/4022520639/

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