猪の面をかぶった伊之助の姿(画像は「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章 猗窩座再来』」公式HP「人物紹介」より https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/)
猪の面をかぶった伊之助の姿(画像は「劇場版「鬼滅の刃」無限城編 』第一章 猗窩座再来』」公式HP「人物紹介」より https://kimetsu.com/anime/mugenjyohen_movie/)
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 『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開され、連休中に大きな盛り上がりを見せている。同作においては、炭治郎の同期・嘴平伊之助も人気キャラの一人。野性的で破天荒な性格だが、山中で孤独に生きてきた過去を持ち、心の奥にトラウマを抱えている。

 新刊『鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城戦の宿命論』を著した植朗子氏は、伊之助の心を癒した「ある老女の存在」について言及している。同書から一部を抜粋変更してお届けする。

【※ネタバレへの注意】以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

*  *  *

嘴平伊之助の幼少期

 嘴平伊之助はある事情で乳幼児期に親に“捨てられ”、山中でイノシシに育てられました。そして、その“母イノシシ”の死後は、さらに孤独に満ちた生活を余儀なくされています。自分の育った山近くの民家で、親切な老人(たかはるの祖父、と呼ばれている。10巻番外編参照)にお菓子をもらい、言葉を教えてもらうなどの経験はありましたが、人と一緒に暮らしたことがない伊之助は、“家族愛”を知らないまま成長していきます。

 伊之助は炭治郎と善逸との最初の出会いでは、同じ鬼殺隊だというのに“戦い”を挑んでいます。当時の伊之助にとって、“戦い”は遊びの一種だったからです。彼は他者との正しい交わり方を知りません。

伊之助の変化

 ある日、任務中に怪我をした伊之助は「藤の花の家紋」の一族の屋敷で、身体を休ませてもらうことになりました。

 この一族は“鬼狩り様”に救われた家門の者たちで、そのため彼らは“鬼狩り”である鬼殺隊隊士に尽くします。この屋敷には「ひさ」という名前の老女がおり、食事や布団の世話、医者の手配など、面倒をみてくれました。これまでひとりで孤独に生きていた伊之助は、「自分のために誰かが温かいごはんを作ってくれる」という経験をここで初めてします。

天ぷら 天ぷら 猪突ゥ猛進!!

(嘴平伊之助/16巻・第135話「悲鳴嶼行冥」)

 これは鬼殺隊柱たちが隊士に特別訓練をしてくれた「柱稽古」の時の伊之助のかけ声です。「反復動作」と呼ばれるパワーを高めるための動作には、自分の“強い感情”と結びつく出来事を頭に思い浮かべる必要があるのですが、伊之助がこの時に口にした「天ぷら」という言葉は、老女・ひさが作ってくれた美味しいごはんのことでした。

 一見すると食いしん坊のようなコミカルなセリフですが、たとえば炭治郎の場合は「反復動作」の時に亡き家族と煉獄さんのことを思い出していますから、伊之助にとってひさの優しさがどれだけ重要な機縁となっていたのか、この言葉からわかります。

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