
「感情の獲得」に執着する童磨
無限城の戦いで、しのぶが対峙したのは、最愛の姉・カナエの仇である童磨だった。童磨の強大な鬼のパワーに押され、劣勢を強いられるしのぶ。童磨はしのぶのことを侮り、「あんな 頚(くび)を斬る力も無いような 剣士ですらない毒使い」と低く評している。しかし、蟲柱・胡蝶しのぶは、決して“負けない”。
しのぶの敵になった童磨は、不幸な幼少期をへて、いつの頃からか「感情」を失ったままになった人物だった。何も感じないのだと言いながらも童磨は、ときおりそのことに戸惑っているように見える。少なくとも童磨は「人間としての感情」を感じてみたいような素振りを見せていた。
感情の獲得への期待、諦め、落胆……そしてまた期待。これらの心の揺れを彼が本当に「感じて」いたのかは、確かめようがないのだが、童磨の執着がそこにあったことは明らかである。
自分の痛みや生死にはこだわりを見せない童磨だったが、彼の不幸は「感情の喪失」と連動している。しかし、無限城の戦いで見せた「しのぶの生き方」が、「心にもたらされる喜び」を知らない童磨を変えていく。これは姉・カナエが望んでいた、「鬼の救済」の新しいかたちであるといえよう。
姉のカナエ、”妹”になったカナヲ
しのぶの姉の技は「花の呼吸」だった。かつて、しのぶはカナエと一緒にこんな約束をしていた。
鬼を倒そう 一体でも多く
二人で
私たちと同じ思いを 他の人にはさせない
(胡蝶しのぶ・カナエ/17巻・第143話「怒り」)
無限城で童磨との戦いがはじまった時、当然のことながらそこに姉・カナエはおらず、しのぶは1人きりだった。強く優しかった姉・カナエの「花の呼吸」の技がこの場に”舞う”ことはない。だが、孤独に戦わねばならなかったしのぶのもとに、新しい「花の呼吸」の使い手、継子のカナヲがやってくる。
「強くなって誰かの幸福を守りたい」という胡蝶姉妹の切なる願いは、しのぶとカナエが大切にしてきた、“妹”の栗花落カナヲが受け継ぐことになる。
カナヲは立派な「花の呼吸」の剣士として強く成長していた。しのぶの献身は新しい「救い」と「光」を生み出し、彼らを立派に守り育てたのだった。しのぶが守ってきた者たちが、この死闘を支えていく。
《新著『鬼滅月想譚』(7月18日発売)では、童磨としのぶの葛藤、救済への思考の違いなどを詳述している。》
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