蟲柱・胡蝶しのぶ(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
蟲柱・胡蝶しのぶ(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
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【※ネタバレへの注意】以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

【画像】胡蝶しのぶと「因縁」がある上弦の鬼はこちら

 7月18日に公開された映画「劇場版『鬼滅の刃』無限城編 第1章・猗窩座再来」が空前の大ヒットとなりそうだ。炎柱・煉獄杏寿郎の死闘を描いた「無限列車編」以来の盛り上がりで、映画を鑑賞した人たちからはすでに絶賛の声が続出している。今回の「無限城の戦い」では、蟲柱・胡蝶しのぶが、因縁の敵である上弦の弐・童磨といよいよ対決する。しのぶは鬼への怒りが抑えきれないが、実は彼女の心の内には、姉・胡蝶カナエの遺言による“惑い”も隠されていた。新著『鬼滅月想譚』(朝日新聞出版)を出版した植朗子氏が、新作映画の重要キャラクター・しのぶの「怒り」と「葛藤」について考察する。

*  *  *

蟲柱・胡蝶しのぶの鬼への怒り

 映画「無限城編」では、蟲柱の胡蝶しのぶが「いつも自分は怒っていたのだ」と本音を吐露する場面がある。たしかにそれは事実である。かつて、まだ炭治郎が鬼殺隊に入隊して間もない頃、蝶屋敷で療養中だった炭治郎との会話の中で、しのぶはこんなことを口にしていた。

そう…そうですね 私は
いつも怒っているかもしれない
鬼に最愛の姉を惨殺された時から
鬼に大切な人を奪われた人々の
涙を見る度に 絶望の叫びを聞く度に
私の中には怒りが蓄積され続け 膨らんでいく
(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)

 その一方で、しのぶは鬼に対して“別の感情”も抱いている。自分には「鬼と仲良くする夢」があるのだと言い、そして自分にはそれを実現できそうにもないから、炭治郎に「君には私の夢を託そうと思って」(6巻・50話)と告げていた。

 鬼との共存、鬼への憎悪。この相反する感情を抱くようにになった背景には、姉・カナエの存在が大きく影響している。

優しい姉、花柱・胡蝶カナエの願い

 鬼にさえ慈悲の心を持つ炭治郎に、しのぶはカナエの姿を重ねて言葉を続けた。

…私の姉も 君のように優しい人だった
鬼に同情していた
自分が死ぬ間際ですら 鬼を哀れんでいました
(胡蝶しのぶ/6巻・第50話「機能回復訓練・後編」)

 その姉の願いを“叶えて”やりたいと思いつつも、どうしてもそんなふうに“優しく”はなれないのだと、しのぶは自嘲気味に自分のことを見つめていた。怒りが自分を支配しているような感覚に襲われる。

あの子たちだって 本当なら今も
鬼に身内を殺されていなければ 今も
家族と幸せに暮らしてた
ほんと頭にくる
ふざけるな馬鹿
(胡蝶しのぶ/17巻・第143話「怒り」)

 しのぶの戦いの動機は、たしかに「強い怒り」が発端となっている。しかし、それだけでは決してない。しのぶが怒るのは、誰かの死、誰かの涙、か弱き人たちの悲しみの連鎖を断ち切るためのものである。胡蝶しのぶは誰よりも優しい。

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