
『鬼滅の刃 無限城編 第一章 猗窩座再来』が公開され、初日から大きな盛り上がりを見せている。同作では鬼殺隊と上弦の鬼たちとの熾烈な戦いが描かれており、蟲柱・胡蝶しのぶもキーパーソンの一人。 『鬼滅の刃』の分析をライフワークにしている四天王寺大学の植朗子准教授は、新刊『鬼滅月想譚 ――『鬼滅の刃』無限城編の宿命論』(朝日新聞出版)の中で、しのぶと“対戦相手の鬼”との会話で示された「救済にまつわる交わらない思想」について紐解いている。同書から一部を抜粋変更してお届けする。
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【※以下の内容には、コミックスおよび劇場版のネタバレが含まれます】
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■人を惑わす〝優しい〞鬼
上弦の弐・童磨は、新興宗教「万世極楽教」の教祖の顔を持つ、特殊な鬼である。信者たちを「救済し高みへと導いている」(16巻・第141話)と言いながら、童磨は自分が「人喰い鬼」であることに少しも悪びれる様子はない。「人間の救い」と「死への恐怖」をめぐるこの大いなる矛盾に、彼はそれほど関心がないようだ。
通常、鬼化した者は飢餓状態、記憶の混濁、理性の喪失によって、そのほとんどが凶暴化する。しかし、童磨は他の鬼と比べると、本能を基調とした内なる衝動を制御できているように見えた。
ただ、自分を慕う信者たちといつでも対話できる環境に身を置き、それに応えうる高い知性を持っていたにもかかわらず、「死にたくない」という信者の言葉を時には無視し、彼は人間を〝救済=殺害〞し続けた。優しく手を差し伸べながら、生命への葛藤、人道上の問題を一顧だにせず人を喰うその様子は、見る者を混乱させるほどグロテスクだ。
彼の鬼としての残酷な行為の数々には、〝人間らしい正義〞は見えない。童磨は人間の捕食者として、鬼殺隊の〝正義〞と真っ向から衝突することになる。
■救済をめぐる童磨としのぶの舌戦
感情を持たないという童磨と、怒りという感情を持てあます蟲柱・胡蝶しのぶ。「誰かを救うため」という動機は共通していながら、躊躇いなく他者を喰う童磨と、自分の身すら惜しみなく他者に捧げようとするしのぶの行動は対照的だ。