(『鬼滅の刃』公式HP、『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』より)
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 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』がついに公開された。同作では鬼殺隊の剣士たちと上弦の鬼たちとの熾烈な戦いが描かれ、それぞれの想いがぶつかり合う。

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 『鬼滅の刃』の分析をライフワークにしている四天王寺大学の植朗子准教授は、新刊『鬼滅月想譚:『鬼滅の刃』無限城編の宿命論』(朝日新聞出版)の中で、鬼殺隊と上弦の鬼との「対戦の組み合わせの必然性」について言及している。同書の「はじめに」から一部を抜粋変更してお届けする。

【※以下の内容には、既刊のコミックスと劇場版のネタバレが含まれます。

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漫画家・吾峠呼世晴の才と「対戦の因果」

 鬼滅読者や視聴者のコメントや感想は、XをはじめとするSNSや、動画考察サイトなどにあふれている。それらを読んでいると、「どうして「上弦の壱」の鬼は炭治郎と対決しないのか?」「なぜ鳴女の対戦相手はあの3人なのか?」「なぜ猗窩座は義勇と対決することになったのか?」「無一郎と玄弥はどうして一緒に戦ったのか?」など、戦闘の場にいるキャラクターたちの“組み合わせ”に関する疑問がときおり目につく。

 それと同時に「猗窩座と炭治郎の〝因縁の対決〞の時に義勇がそばにいたのは、単に義勇が炭治郎を見守る役割だったから」や、「水の呼吸の使い手同士だから」とか、「悲鳴嶼さんが黒死牟と戦ったのは、〝鬼殺隊最強〞と〝十二鬼月最強〞のキャラクターだから」といった意見を多く目にした。たしかにそれらの理由は正しいといえるが、それ以外にも〝対戦の因果〞は考えられる。

 鬼滅ファンなら誰もが知っているとおり、作者の吾峠呼世晴氏の物語構成は、極めて綿密に、周到になされている。ひとつの場面でも、伏線は複数張り巡らされていて、それをひとつひとつ考えていくことも『鬼滅の刃』の味わい方のひとつであろう。

 とくにクライマックスシリーズでもある劇場版3部作「無限城編」では、多くの鬼殺隊剣士、複数の鬼たちの戦いが入り乱れるため、「鬼と剣士」「鬼殺隊同士」の組み合わせにまつわる“解きたい謎”もたくさん出てくるはずである。

 無限城戦の口火を切ったのは、鬼の始祖・鬼舞 辻無惨と、鬼殺隊の長・産屋敷耀哉だった。鬼殺隊の戦力の要である柱たちもその場に駆けつけたが、無惨の虚をつくかたちで産屋敷邸が爆破され、無惨自身の思惑も重なって、炭治郎たちは鬼の棲家である無限城へと〝落下〞していく。

 この本は、無限城でくり広げられる戦いの「組み合わせの謎」を解き明かすことを目的としている。無限城戦の特徴は、鬼殺隊の隊士たちが「ともに戦う」という点にあるのだが、それは隊士たちの人間関係や親しさに起因するというよりは、敵として向かい合うことになる鬼との因縁の深さが関連していると考えられる。

 〝戦闘/共闘の組み合わせ〞の背後には、「鬼と人との戦いの意味」そのものが潜んでいるのである。しかし、「なぜ戦闘が、この組み合わせで進むのか」という理由は、一読するだけでは分かりにくいだろう。

 猗窩座と戦うのは、なぜ竈門炭治郎冨岡義勇なのか。義勇と猗窩座との因縁については、鬼滅ファンからもあまり語られることはなかったので、とくに新たに解釈が必要であろう。

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