
各界の著名人が気になる本を紹介する連載「読まずにはいられない」。今回は朝日新聞コラムニスト兼編集委員の近藤康太郎さんが、『反共と愛国 保守と共棲する民主社会主義』(藤生明著)を取り上げる。AERA 2025年7月21日号より。
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折しも参院選真っ最中だが、昔、民社党という政党があった。1960年の設立から94年の解党、現在までを追った労作である。
民社党は結党時の綱領で〈資本主義と左右の全体主義とに対決(略)暴力革命と独裁政治には断固反対(略)不平等を正し、全国民中産階級化、福祉国家建設〉を謳った。
しかし70年代に入ると、右旋回を始める。〈反自民を強調しすぎると、何でも反対の他党と違わなくなる〉との目算もあった。昭和の終わりに元号法制化へいち早く動いたのが民社党だったし、〈防衛政策で自民党よりタカ派と目されることが多くあった〉。さらに〈行革与党。一九八○年代に民社党が好んで使った自称である〉。公のサービスを削って民間企業へ。いまでいう「ネオリベ」の嚆矢だ。
維新や国民民主党に、その遺伝子は継承されているのではないか。また〈ジェンダー論は性差を否定し、結婚、家族をマイナスイメージでとらえ〉ると批判する山谷えり子(自民党)は、もとは民社党だ。タカ派の稲田朋美(同)も〈知る人ぞ知る民社系の人脈に連なる一人〉。

「愛国」とともに「反共」が民社党の売りだった。共産党排除を先導し、野党共闘を阻んだ。現在の連合会長が、ヒステリックなほど共産党嫌いを発揮しているのと同根だ。かつて労相を務めた自民党の山口敏夫でさえ、現在の連合を〈大企業追随。政治についても、自民党に代わる勢力を結集しなければいけない時に、共産党との協力はダメだと邪魔をする。自民党の政治とカネ問題だって暴いたのは共産党でしょ。協力できるところは協力したらいい〉と著者のインタビューで呆れている。
著者はかつて朝日新聞に籍を置きながら、右派・保守勢力の取材にめっぽう強いユニークな記者だった。労組の機関誌はもちろん、政治家・経済人らの回想録や内閣官房調査月報、選挙公報までをも渉猟する。ときに当事者の記憶違いの誤りを正す(巻末に索引はほしかった)。
謎なのが「でもなぜ民社党?」。結党時には衆院40議席、参院17議席をとったが、その後、これを上回ることはなかった。しょせんはマイナー政党である。筆致は冷静、というより、著者自身が書くように〈傍観者〉の気味がある。物足りないと言いたいのではない。ちょっと、笑えるのだ。調べることそれじたいを愛してしまった、職人気質(かたぎ)ジャーナリストの性(さが)だろうか。
日本会議や神社本庁に斬り込んだ著者の、次なる標的はどこだろう。願わくば右派ど真ん中に突っ込んでいってほしい。〈傍観者〉の、さめてクール、豪胆、粘着な足取りで。
※AERA 2025年7月21日号
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