藤井猛九段=2025年3月5日、東京都渋谷区の将棋会館
藤井猛九段=2025年3月5日、東京都渋谷区の将棋会館
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 注目対局や将棋界の動向について紹介する「今週の一局 ニュースな将棋」。専門的な視点から解説します。AERA2025年7月21日号より。

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 優れた文学作品は芥川賞や直木賞など、文学賞の選考対象となる。それと同様に、優れた詰将棋作品を対象とした賞がある。その最高峰が、江戸時代における詰将棋の大天才・伊藤看寿(贈名人)の名を冠した「看寿賞(かんじゅしょう)」だ。

 2025年6月、新しい看寿賞作品が発表された。2024年中に雑誌やネット上などに発表された膨大な作品の中から、一般推薦、委員による選考、投票を経て選ばれたのはわずかに4作。そのうちの1作が、藤井猛九段(54)作の長編155手詰だった。

 その選考経過については「詰将棋パラダイス」2025年7月号に掲載されている。興味のある方はぜひともご覧いただきたい。見識高き委員たちによって、どの作品も等しく、きわめて厳しい視点で批評されていることがよくわかる。その中で藤井作は「巧妙な伏線と謎解き。プロ棋士の読みが冴えわたる恐ろしい力作」(山路大輔委員)といった絶賛を受けた。

 藤井九段は竜王通算3期、棋戦優勝8回、順位戦A級在籍10期など、輝かしい実績を誇る名棋士だ。現代振り飛車党のカリスマであり、ファンからの人気も高い。藤井システム、角交換四間飛車の研究によって、すぐれた戦法の開発者に与えられる「升田幸三賞」も2回受賞している。

 藤井九段が詰将棋の創作を手掛けるようになったのは、ここ数年のことだという。そしてほどなく、歴史に残る名作を発表するとは、さすがというほかない。

「難しい詰将棋は、とても解ける気がしない」

 そう感じている方も多いだろう。正直なところ、筆者もその一人だ。だからといって、芸術的な詰将棋の名作をスルーしてしまうのは、あまりにもったいない。少し考えたあとで正解手順を並べ「なるほど」とうなるのもまた、立派な詰将棋の鑑賞の仕方だ。(ライター・松本博文)

AERA 2025年7月21日号

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