流出の背景は地方の「生きづらさ」

 山本さんによると、聞き取りをした女性たちの多くが地方の課題として挙げたのが「旧来の価値観の固定化」だった。女性が地方から都会へと流出する背景には、“都会志向の女性が増えている”というよりも、古い価値観が残る場所での生きづらさを理由に地方を離れているという実感があるという。

 実際、山本さんがプロジェクトで聞き取りを行う女性の半数が、「今は都会で働いているけれど、いつか地元に戻りたいor地方で暮らしたい気持ちがある人」だというが、仕事のバリエーションの少なさや価値観のギャップ、女性としての役割を押し付けられるなどの理由から、仕方なく都会にいることを選んでいるという人も多いという。

キャリアの継続も重要なポイント

 山本さんは言う。

「地方では、“女性の幸せ=結婚して家庭を持つこと”という考えを前提に、いろんなことが考えられていると感じます。例えば就職説明会でも“女性でもできる簡単な仕事”“女性でも働きやすい会社”などという謳い文句で、女性は子育てすることを前提に補助的な仕事を回される現実が見えることも多い」

 本来、結婚や出産はそれぞれの選択であるべきで、仕事であれば、育児が障壁にならず、キャリアを継続できるかが重要なポイントのはずだ。

「なのに、地方ではいまだに企業のアピールポイントがずれている。地方がそういう環境だから、仕方なく東京で働いているという若い女性も少なくありません」(山本さん)

居心地のよい環境は?

 無論、そうした価値観は都市部にも存在するし、都市部にも同様の生きづらさを抱える人はいる。都市部と地方は二項対立で語られがちだが、都市部が生きやすくて、地方が生きづらいなどと、一概に語れる話では決してない。

 だが、地方に行くほど、「女性は子どもを産んでくれ」という圧をまざまざと感じることになる。地方の人口減少の文脈とセットで語られる若い女性の人口流出の裏には、女性たちのこんな本音が潜んでいることを忘れてはならない。山本さんは言う。

「何らかの妨げがあるから、仕方なく都会か地方かを選ぶのではなく、それぞれの持つ課題が課題として認識されて、一緒に解決していこうという方向になっていけたらいいなと思います。自分にとって居心地のいい環境は何かという視点で、住む場所や働く場所、生き方が選べる社会になったら、どんな人でももっと、生きやすさを感じられるのでは」

(ライター・松岡かすみ)

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