映画「国宝」のワンシーン。寺島しのぶさん、渡辺謙さんの存在感が光る ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
映画「国宝」のワンシーン。寺島しのぶさん、渡辺謙さんの存在感が光る ©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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 歌舞伎役者の一生を描いた吉田修一さんの原作小説(朝日新聞出版)が映画化された「国宝」。その完成された世界の中で存在感を発揮しているのが、自らも歌舞伎役者の家に生まれた寺島しのぶさんだ。社会現象になりつつある「国宝」に何を想うのか。単独インタビューが実現した(前後編の前編)

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「いま私の周囲からも続々と『国宝』の感想を頂いています。『しのぶさんがいてくれたことで、すごくリアルな世界が作り上げられていた』というような言葉がたくさん届き、嬉しいです。でも私自身、作品はまだ観てないんですよ。自分の出ている作品はすぐには観られない主義だから。今回も2~3年熟成させてから観ようと思っています」

 と、寺島さんは笑って話す。歌舞伎役者・七代目尾上菊五郎を父に、俳優・富司純子を母に持つ歌舞伎一家に生まれ、自身で俳優の道を切り開いてきた。本作では上方歌舞伎の名門・花井半二郎(渡辺謙)の後妻にして、俊介(横浜流星)の実母である幸子を演じている。原作を興味深く読んでいたが、当初は映画化に不安もあったという。

歌舞伎は私にとって魑魅魍魎の世界

「最初にキャスティングをしていただいたとき、(中村)鴈治郎さんが出られることはまだ知らされていなかったので、この映画のなかで歌舞伎界を知っている人間は私だけになるのか、幸子という役をやるだけでなくもっと大きな役割を背負うのかなと、勝手に責任のようなものを感じていました。もちろん原作者の吉田修一さんが何年も楽屋に足を運んでできた傑作であり、李相日監督の並々ならぬ決意を感じました。ただ歌舞伎界は、私にとって本当に独特で、魑魅魍魎の世界。私ができることは私が存在する事だ!と思ってお受けしました」

 現場に入ったとたん、監督はじめスタッフさんの「熱」に高揚したという。セットは美術監督・種田陽平が完璧に仕上げ、所作は谷口裕和や中村鴈治郎が目を光らせている。そのなかであくまでも歌舞伎界に生まれた「中の人」として、気になったことを監督に率直にアドバイスした。

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