
山本:日本は長時間労働できる、休日労働できる人に責任のある仕事がアサインされ、その人が昇進・昇格していく傾向があると思いますが、それだと子育てや介護中の人など入り込めない人が出てきます。資生堂は2021年にジョブ型人事を導入し、ジョブグレードに合わせた職責、責任で、適切な業務アサインをして、それを年間で評価していくようにしています。その人の働く時間が制限されていても、報酬に見合った役割責任で結果を出し、それを評価するようになっています。
渥美栄司:フィンランドだと、働いている人が留学したりと、キャリアの途中で小休止することが割と当たり前です。希望すればまた同じ会社に戻ることもできるのですが、キャリアが不連続になっても活躍できる体制を会社側が整えているのは、非常によくできていますね。あと、私は以前NOKIAで働いていましたが、2000年あたりからテレワークができていました。フレキシブルな働き方を尊重するのは、きわめて重要ではないでしょうか。
相馬知子:日本の無償労働家事時間の男女差は約5倍以上というデータもありますので、政府も男性の家事・育児参画には問題意識を持っています。経済産業省としてもなでしこ銘柄として、女性活躍に優れた企業を選定していますが、評価項目には共働き、共育てをキーワードに入れ、性別を問わずしっかりと家庭責任を負っていけるような仕組みができているか、実績が上がっているかも評価しています。ただ、問題意識を持って取り組んでいる企業と、そうではない企業とがあり、社会全体で進めていかなくては解決しません。職種の男女差にしても、データを見れば日本の義務教育終了段階の女子が取る数学の点数は、OECD諸国と比較しても十分高い。でも、進路では理系を選ばない。それは教育や家庭内での会話、メディアが発信するメッセージも大きく影響していると思っています。

割り切りと優先順位
渥美:私は日系企業でも欧米企業でも働きましたが、日系企業は生産性が低いと言われるものの、スケジュールを遵守し、製品のクオリティーも高い。ただ、グローバル基準で言うと高すぎなんです。日本の企業で求められる品質をキープしたまま、時短で働くのは無理がある。生産性含めて、どこでトレードオフをするか、各国の基準を見極めて、割り切りと優先順位とをつけるのも一つ重要と思いますね。