
コロナ禍により一時激減した日本人の国内旅行だが、2024年の国内の日帰り・宿泊旅行消費額は約25.2兆円と過去最高額となった。観光地がにぎわいを取り戻している一方で、旅行から遠ざかる世代がいる。60代以上のシニア層だ。
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明治安田総合研究所が観光庁の調査データをもとに6月に公表したリポート「失われるシニアの旅行消費」によると、2024年に観光目的で国内宿泊旅行を経験した人の割合は、コロナ前に比べて20代では上昇した一方で、60代以上では低下。特に70代では50.7%(14〜19年平均)から37.8%(24年)まで落ち込んだ。国内日帰り旅行でも70代は44.9%から31.2%に低下。ほかの年代に比べて下落幅が最も大きく、若年層とのギャップが浮き彫りになった。
物価高騰の影響は一因として考えられるものの、リポートでは「他世代よりもシニアの経済状況が悪化している様子は見受けられない」との見方を示している。ではなぜシニア層だけ、旅行を敬遠するようになったのか。要因の一つとしてあげるのが観光業界のDX化だ。
人手不足やオーバーツーリズムといった課題への対応策として、主要な観光地では、予約のオンライン化やスマートチェックイン、キャッシュレス決済は一般的になりつつある。
しかし、スマートフォンやタブレットを「よく利用している」または「ときどき利用している」のは、70代で57.7%、80歳以上で42.2%にとどまるのが現状だ(総務省調査)。キャッシュレス決済の利用経験も60代から低下が目立ち始め、70代以降では4割を下回っているという(消費者庁調査)。デジタル化の壁に70代以上が直面していることがうかがえる。

訪日客の増加による混雑も、シニアにとっては大きな障壁のようだ。多くの客であふれかえった観光地では、トイレに行きにくい、杖を使った歩行が困難といった身体的な負担が大きくなるという。
とはいえ、シニア層の旅行への意欲は衰えたわけではない。観光庁が旅行に対する考え方について調査したアンケートでは、旅行について「最も大切な趣味」と回答した割合が他世代と比べて60代以上で高くなっており、70代では32.9%にのぼる。
同研究所は「シニアにも優しいデジタル設計」が一層求められるとし、「文字サイズや配色、重要情報の画面中央配置など視認性の向上に加え、シンプルな画面設計やわかりやすいアイコン、AIによる読み上げ機能の活用も効果的と考えられる。『使ってみると便利』と実感できる体験につなげることが重要」と指摘している。
(ライター 船崎桜)
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