山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師
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 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「自分の身を守る猛暑への備えに」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。

【図】熱中症はどんな症状がでると要注意? 進行のステップはこちら

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「お義母さんが庭で倒れて、意識がなくなって……救急車で運ばれたらしい」

 電話口の夫の声は震えていました。それは昨年の7月中旬、真夏の日差しが街を焼く昼下がりのこと。数日後、私たち家族が訪れるはずだったアリゾナでの出来事でした。

 アリゾナ州フェニックス――“全米で最も暑い街”と呼ばれるこの地は、近年の気候変動でさらに過酷さを増しています。過去10年で最高気温はおよそ5度、最低気温も3度上昇し、暑さによる死者数は10倍に跳ね上がったといいます。義母も長年この街で暮らし、日中の外出を控えるなど猛暑を避ける知恵を身につけていました。それでも、私たちが久しぶりにやってくるからと「せめて庭を整えておこう」と炎天下の昼下がりに出てしまったのです。

 足元の小石に足を取られ転倒。まるで地面からも熱風が吹き上げるような灼熱の中、意識が遠のいていったといいます。立ち上がれないまま、30分以上も熱した庭石の上に横たわることになってしまいました。

 異変に気づいたのは、自宅でリモートワークをしていた家族の一人。普段と違う声で吠える愛犬のシェパードに導かれ、庭先で義母を発見したのです。救急搬送の結果、義母は重度の脱水と腕・脚の2度熱傷で入院。命は助かったものの、「猛暑は命を脅かす現実なのだ」と強く突きつけられた出来事でした。

日本でも35度を超える日が続く

 これは決してアリゾナに限った話ではありません。今年の日本でも各地で35度を超える猛暑日が続出しており、都市部ではヒートアイランド現象によって、気温以上に路面や建物周辺の熱環境が悪化しています。特に東京都心部や大阪市中心部では、夜間になっても30度近い気温が下がらず、アスファルトやコンクリートが熱をため込み、日没後も危険な高温状態が続いています。こうした環境下では、たとえ短時間の外出であっても、思わぬ事故につながりかねません。

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