
4回目となる「氷艶」で高橋大輔がみせたのは、競技時代にも挑んだロックに乗ったスケーティングと、プロになってから磨いてきた演技力だった。
7月5~7日、横浜アリーナで開催された「氷艶 hyoen 2025 -鏡紋の夜叉-」。日本文化を氷上で表現する「氷艶」は、2017年に行われた第1回公演から今に至るまで、比類ないアイスショーとしての立ち位置を確立してきた。そして常にその中心にいたのは、唯一無二の表現者としての高橋である。
今公演で高橋が演じたのは、出身地である岡山に伝わる「温羅伝説」の主人公・温羅。「温羅伝説」は、「桃太郎伝説」の基になったともいわれている。高橋は鬼にあたる温羅に扮し、増田貴久(NEWS)演じる桃太郎にあたる吉備津彦と対峙する。
今までにも地元・岡山への思いをさまざまな形で表してきた高橋は、公演初日を終えて次のようにコメントしている。
「岡山の温羅伝説に根ざした物語を、自分のルーツと重ね合わせながら表現できることに、非常に大きな喜びと責任を感じています」
今公演は、SUGIZOの生演奏に合わせて演じられる「ロックオペラ」だ。高橋は、選手としてもロックで演じた経験を持つ。ロックを使うフィギュアスケートの競技プログラムは多くない中で、高橋のシングル最後のショートプログラム『The Phoenix』は強烈な印象を残した。
3月に行われた今公演の記者発表会後、個別取材でロックでスケートをすることについて聞くと、高橋からは「『“合う”しかなくない?』という思いしかなくて」という答えが返ってきた。
「物語と音楽のマリアージュである今公演では、本当にエネルギッシュで壮大なものが出来上がるんだろうなと」
高橋の予想通り、「戦う意味」「正義とは何か」といった現代にも通じるテーマを扱う今公演では、殺陣のシーンや激情を表現するシーンが多く、ロックの旋律と絶妙にマッチしていた。
高橋は、持ち味である深くエッジを倒して音を体現するスケーティングはさることながら、台詞でも温羅の複雑な心境を表現した。妻である阿曽媛を亡くしたシーンでの慟哭、鬼に変化する場面での叫び、吉備津彦との戦いの末に最期を迎えるまでの激白では、感情を爆発させる演技をみせた。