古賀茂明氏
古賀茂明氏
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 国際原子力機関(IAEA)が各国に求める「深層防護(Defense-in-depth)」をご存じだろうか。これは、原発の安全性を確保するために、必須とされる5段階の安全対策のことだ。

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第1層:異常の発生を防止する

第2層:異常が発生してもその拡大を防止する

第3層:異常が拡大してもその影響を緩和し、過酷事故に至らせない

第4層:異常が緩和できず過酷事故に至っても、対応できるようにする

第5層:異常に対応できなくても、人を守る

 というものだ。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きるまで、日本ではこの5層の防護という考え方が無視されてきた。しかし、事故後はさすがに無視できなくなり、これに基づいた規制基準を作ることになった……はずだった。

 しかし、結論から言うと、ほとんどの人が気付かぬまま、大変な欠陥基準ができてしまった。「異常に対応できなくても、人を守る」という第5層の防御が完全に抜け落ちた規制基準になったのだ。

 そこにはいろいろな言い訳があるのだが、真相を言えば、第5層まで基準に入れて原子力規制委員会が審査すると、日本の原発は全て動かせなくなるというのがその理由だ。

 第5層の防御の肝となるのが、過酷事故が起きた時の避難計画である。

 その重要性を示す良い例がある。それは、米国ニューヨーク州のロングアイランドに建設されたショアハム原発の事例だ。1984年まで10年以上かけて建設された原発が、避難計画が不十分だという理由で稼働できず廃炉が決まった。

 その際問題となったのは、陸路の渋滞とそれを回避するための船での避難計画だった。電力会社は、多少の悪天候でも運航できる専用の大型船の傭船契約を結んで確実に避難できるとしたが、その時にハリケーンが来ていたらどうするかという反論に対応できず、避難計画が不十分だという結論になった。

 6月27日、東京電力柏崎刈羽原発の事故発生時などの広域避難計画「緊急時対応」が了承された。

 これを聞いた人は、避難計画について、専門家が厳格な審査をしてその安全性にお墨付きを与えたと思うだろう。

 しかし、これは全くの間違いだ。そもそも、原発の安全性について規制基準に基づいて専門家により厳格な審査を行うはずの原子力規制委員会が、避難計画の審査を行うことはない。

 他の独立した専門家による審査も行われない。

 原子力防災会議という、単に大臣などが集まった素人集団が「了承」するだけ。そのトップは首相だ。東京電力など原子力ムラとベッタリの自民党の首相が避難計画に問題なしと言ったということでしかないのだ。

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