ニャフンケを訪ねた帰り道では、客船ではなく資材運搬船に乗ってモプチへと戻った(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
ニャフンケを訪ねた帰り道では、客船ではなく資材運搬船に乗ってモプチへと戻った(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
両岸にマリの人々の生活を間近に見ながら、船は進んだ(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
両岸にマリの人々の生活を間近に見ながら、船は進んだ(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
川岸の家並みとモスク(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
川岸の家並みとモスク(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
魚をとるボゾの民。たった一人でも、上手に船のバランスをとっていた(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)
魚をとるボゾの民。たった一人でも、上手に船のバランスをとっていた(ニジェール川・マリ 2016年/Niger River, Mali 2016)

 広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。

【フォトギャラリー】アフリカで出会った神様が与えてくれた川

 ニャフンケを取材した岩崎さんは、辛い話の連続に定期運行の船を待たず、モプチへと引き返すことに。乗り込んだ小さな資材運搬船は、行きの船とは全く違う景色を岩崎さんに見せてくれた。

*  *  *

 西アフリカの内陸国マリで続く紛争の傷跡を、同国北部の町ニャフンケで目の当たりにした私は、定期運行する客船の出発を待たず、小さな資材運搬船に乗ってモプチの町へと引き返した。積み荷のない小舟は、時速10キロメートル弱の速度でニジェール川を遡上(そじょう)していった。往路と違い船のスピードは遅く、景色がゆっくりと流れていく。帰路の旅路では、周辺域に暮らす人々の生活を間近に見ることができた。

 漁業の民ボゾの青年が、小舟に乗って投げ網漁をしていた。全長5メートルほどの船にひとりで乗り、2メートル強の竿で川底をついて船を進めながら、手編みの網を狙った地点に投げ入れる。捕れ高は決して多くはない。1回あたり、7センチほどの小魚が、数匹取れる程度だ。たまに捕れるナマズやキャピタンなどの大きな魚は、売り物として市場へと運ばれるという。

 フラニの家並みが遠くに見えてきた。木の枝を組みわらぶき屋根を張り、ござで周囲を囲んだだけの簡素な家は、遠目に見てもすぐにフラニのものだとわかる。フラニは遊牧の民。家畜とともに移動を繰り返すため、彼らの住まいは持ち運びしやすい構造となっている。

 泥壁でつくられた四角い家々がぎゅっと密集し、その中心にモスクの尖塔(せんとう)が頭を出している集落が、時々現れる。船の船頭によると、ソンガイの集落だという。モスクと民家と木立がセットになったたたずまいは、目を引きつける何かがある。そんな集落のひとつで、女性と子どもたちが、川岸で洗濯をしていた。色鮮やかな布が、村近くの川面を彩る。

 洗濯を終えると女性は、まとっていた服をその場で取り払い、入浴を始めた。ワシワシとせっけんを泡だて、さっきまで腰にしばっていた赤ちゃんと、自身の体を洗っていた。子どもたちも遊ぶことなく、真面目に体を洗っている。

 自動車もまた、川で洗う。川岸に車の前半分を乗り入れ、水をかけ、せっけんで洗い、また水をかける。人の体を洗うのと同じ要領だ。前半分が終わると、向きを変えて後ろ半分もまた、同じように。洗車の様子を眺めていると、こちらもなんだかスッキリした気分になってくる。

 スッキリとすることは、他にもある。少年が、川に向かっておしっこをする。川近くの草むらでは、大人の男性も女性も排せつしている。事後のお尻は、川で汲んだ水で拭う。船尾に設置されたトイレも、床板に穴が開けられただけのものだ。排せつしたものは直接、川に流れる。

 そして彼らは時に、あらゆるものを洗い流したこの川の水を、そのまま、飲む。

 乗船した船に、飲料水はない。船頭は、コップで川の水をすくい、その水をじっと見つめたのち、ぐっと飲み干す。船頭の2人の子どもも、全く同じ所作で、川の水を飲んでいた。

 ニジェール川は、「神様が与えたもうためぐみの川」だと聞く。小舟から人々の生活をつぶさに見続けた私には、ニジェール川とここに暮らす人々の生活が、完全に一体であると感じられた。

 ほとんどの村々に、電気は通っていない。船に積まれたエンジンと、人々が手にしている携帯電話を除けば、ひょっとすると数百年前からほとんど変わっていのではと思える風景が、ニジェール川の船旅ではひたすら続く。こんな風景に左右を挟まれて進んでいると、例えようのない、不思議な不思議な感覚に陥っていく。

次のページ