
桜田:はい。文化祭や体育祭、修学旅行もなくなりましたし、部活動に熱を注いでいた人たちが大会がなくなって虚無感のようなものを感じている様子を目にしていました。私たちはコロナ禍で「青春」というものから切り離されてしまった世代なのかなと個人的には思います。私自身もドラマの撮影がストップして2カ月空いてしまいました。再開してもスタッフも俳優も全員フェイスシールドやマスクをしていて、演じる同士も本番まで相手の表情がわからない不安もありました。でも本作でマスクをつけて演じてみたら、想像していたよりも抵抗なく演じることができました。
予期せぬ出来事に意味
山元:あのときってお互いの顔色が見えてないのに、なにか溢れ出てくるものを察知して相手の思っていることを感じ取っていましたよね。今回はあえて俳優のみなさんにマスク着用を徹底したんです。予期せぬ出来事にも意味を感じて挑んでいけば達成できるものがある。コロナ禍での経験は自信にもなりました。
桜田:私も本作でそうした事態のときにほかの視点を持ったり発想を転換したりすることで道が見えることがあるんだ、と教わりました。
生身の人間にしか
──コロナ禍を経ても戦争や災害など世界には不安が絶えない。表現者としてこの時代に思うことはあるだろうか?
桜田:結局この仕事って生身の人間にしかできないと思うんです。ロボットやAIでは決して作れない。何十年、何百年先も俳優という職業は絶対にあるはずだと。だからこそ人を前向きな気持ちにさせたり、なにかを考えるきっかけになったりするような表現者でありたいですし、そのために自分自身と俳優であることは常に切り離せないんです。ふとした瞬間にプライベートで感じたこともすべて自分の中にしまっておいていつでも取り出せるように貯めておこう、そして表現の幅を広げてもっと見てくださる方を楽しませることができれば、と思うようになりました。
山元:映画って時代とともにずっとあるんですよね。衣食住はもちろん重要だけれど、やっぱりそこに娯楽がないと人はやっていけないと僕は思うんです。生きるために必死だった一日が一本の映画を観たことで豊かになる瞬間がたしかに絶対にある。僕もそうしたものを届けられるように映画の世界で頑張っていきたいと思っています。
(構成/フリーランス記者・中村千晶)

※AERA 2025年7月7日号
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