「で、外で会ってみたら、『友達になろう』から『恋人になろう』に変わって、『恋人が無理ならセフレになって』に変わっていったんですよ。最後は、肩わしづかみで力説されて、断ったら殺されると感じたんですよね。で、『センシティブな話だから2人きりになりたい』と言われて、何もしないという言葉を信じて、ホテルについていってしまったんです。信じたらダメだろうって今なら思うんですけど……」
警察は「あなたにも落ち度があったんじゃない?」
結局、ホテルに入ると相手は豹変した。桃奈さんは必死で逃げ道を探したが、殺される恐怖で、言いなりになることしかできなかったという。
「その後は、どうやって帰ったのか記憶がない。ホテルの窓から雪が降ってるのは見えたけど、それ以外のことは覚えていない。警察にも行ったけど、『それはあなたにも落ち度があったんじゃないですか? 大人なんだし』と言われて、落ち度ってなんだろうと思った。そのときはショックでしたね」
完全に悪人とは「言い切れない」
桃奈さんは、少し間を開けると、目をぼんやりさせながら言った。
「お客さんはみんなそうだけど、どこか寂しさを抱えていたように見えました。大人の男性は、社会的地位もありながら弱音を吐ける場所なんてないだろうから、私はそれを受け入れられる存在でありたいと思ってしまったんですよね。だから、その人のことも、完全に悪人かと言われたら、私はそう言い切れないかもしれない。されたことはショックだし、他の人にもしてほしくないけど、その人が全部悪いのかといったらわからない。だから、できるだけ早く終わったことにして生きていきたいです」
風俗をやめてから、約7年が経つ。それでも毎年、被害に遭った日が近づくと、気持ちが沈むという。
「過去のことだから、『そろそろ大丈夫になってくれよ自分』って思うんですけど……」
幸せになることが怖い
しかし、こうも言う。
「もう二度と風俗はやりたくない。でも、時間が経つと不思議なもので、またやろうかなって考えたりするんです。自分を傷つけることに慣れすぎてしまったから、幸せになることが逆に怖い。傷ついている自分のほうが正しいんじゃないかって、たまに思ってしまうんです」
桃奈さんにとって風俗で働くことは、自傷行為の意味合いもあったのかもしれない。