
炭酸コーヒーは「失敗の歴史」
なぜ“鬼門”とも言える「炭酸コーヒー」の商品化に繰り返し挑むのか。伊藤園の宮内さんは言う。
「缶・ボトル入りのコーヒー飲料市場は、もう何十年もブラック、カフェラテ、微糖に大別される変化が少ない市場で、市場規模も2010年ごろをピークに縮小傾向でした。われわれも含めて各社が挑んできたのは単に目新しさを狙ったとか、我先にという思いではなく、『もうひとつ何か新ジャンルを切り開かなければ』という市場全体を見渡したうえでの課題感が背景にあるんです」
では、勝算はあるのか。伊藤園が23年に発売したガッサータはコアなファンをつかんだ一方、ライトユーザーの取り込みには至らず、年度内にほぼ終売した。今回の開発に際しても社内で賛否があったという。ただ、宮内さんは続ける。
「前回のガッサータも確実に味わいを評価していただいている実感はあって、終売後も現在まで毎月問い合わせが来ていました。手に取っていただくきっかけさえ大事にすれば、必ず反応は良くなると思った。今回はコーヒーに普段親しまない人にもコーヒーとの新たな接点をつくってもらえるよう、商品開発に取り組みました」
前出の久須美さんも、こんな期待を口にする。
「炭酸コーヒーの歴史はある意味、『失敗の歴史』です。それでも、清涼飲料水の歴史を振り返るとこうした挑戦が新機軸を生んだ例もあって、いつか新ジャンルとして市場に根付き、定番化していくかもしれないと期待しています」

ときに「キワモノ」扱いされることもある缶・ボトル入りの炭酸コーヒーだが、実はカフェシーンでは、すでに「炭酸×コーヒー」は定着しつつある。代表的なのが、トニックウォーターにエスプレッソを注いだ「エスプレッソトニック」だ。北欧で誕生したとされ、2010年代後半以降、日本でもカフェやコーヒースタンドでメニューに並ぶようになった。コーヒー店「Yokohama coffee stand」を営む柴野寛潔(ともゆき)さんは言う。
「炭酸の爽快感と、エスプレッソの苦みって、すごく合うんです。シュワシュワと弾けるのど越しは、特に暑い日には気持ちがいいですね。『邪道』と思う人もいるかもしれないけれど、コーヒーをどう楽しむかという提案のひとつです。店ごとに個性も出ます。うちでは時期限定で別のシロップを加えたり、エスプレッソではなくてコールドブリューのコーヒーを使ったりするメニューを出したこともあります。炭酸×コーヒーはいろいろな楽しみ方ができますよ」
はたして、今年の夏は「炭酸コーヒー」を街で飲む人の姿が増えるのか、それとも……各社の挑戦はしばらく続きそうだ。
(AERA編集部・川口穣)
こちらの記事もおすすめ フランス人マダムに教えてもらった、世界一おいしいアイスティーの作り方