八王子市、広いです。東京って狭いのに、どうしてかその中の一部でしかない八王子はやたらでかく感じます。クルマであちこち取材に行きましたが、走っても走っても八王子市。某所には暴力団事務所もあり、通行人を監視するカメラのレンズがきらり。南へ行くと高級住宅街の八王子みなみ野地区もあり、豪邸の連なりは圧巻です。

 浅川の河川敷にはしょっちゅうイノシシが出没し、市役所近くまでクマが出たという目撃証言もありました。後にそれはイノシシだったと判明したそうですが、クマと見まがう大きさのイノシシが都内の生活圏にいるなんて驚きです。シカが出たのは最近のことで、彼か彼女は駅の方まで行っちゃったようです。

 ヤンキーが多いのは有名で、地域の小学校の運動会に行くと保護者のみなさまの髪色がカラフルだそうな。金、赤が多く、青や緑もいるそうです。すぐそこに浅川や秋川の河川敷があるのに、なぜか八王子市民は自宅の庭でバーベキューをします。夏にはお肉の焼けるいいにおいが充満するのが八王子の一般的な住宅街です。

 八王子は東京都のはずですが、「東京」ではないです、確実に。いい意味でも悪い意味でも「八王子独立王国」なんて言われますが、言いえて妙。

 そんな町、八王子市を舞台に、地域に密着する新人女性警察官の活躍を描きました。八王子ならではのエピソードを厳選して連作短編風にまとめたように見せかけて……随所に、この作品を貫く未解決事件「アザレアおおるり台一家惨殺事件」の伏線を張り巡らせました。

 お楽しみください!

 そうそう、私が八王子市を取材し一番素晴らしいと思ったことは、書店が多いことです。駅周辺だけでなく、街道沿いにも多数見かけました。こんな町、東京には――いや、日本全国、他にどこにもありません。

 八王子独立王国、万歳!

こちらの記事もおすすめ 【著者から】 噺家 ・春風亭一之輔さんの最新作エッセイ集『ドグラ・まくら』でくすっ、くくく、アハハ! 今日を元気に! (一冊の本収録)
[AERA最新号はこちら]