
日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「飛行機内での体の負荷と変化」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
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夏休みシーズンが近づいてきましたね。旅行の予定を立てている方も多いのではないでしょうか。飛行機に乗って遠出するのはワクワクする一方で、意外なリスクも潜んでいるのをご存知でしょうか。
実は私は、目的地へ向かう飛行機の中で、ほんの三口のビールを飲んだだけで、突然、意識を失ってしまったことがあります。体質的にアルコールに弱いことは自覚していたものの、その日は「少しなら大丈夫」と油断してしまったのです。
普段、私はアルコールをほとんど口にしません。機会飲酒といっても、年に数回、ほんの数口。それ以上飲むと、顔が真っ赤になり、ひどい頭痛に襲われる体質なのです。だから、いつもなら飲み物を聞かれても、迷わず「水で」と答えています。
けれども、その日は違いました。日本からアメリカへの帰路、成田発サンディエゴ行きの国際線に乗り込んでいました。隣席の女性が、グラスに注がれたビールを美味しそうに飲んでいるのを見て、ふと、「私も飲みたい」と思ってしまったのです。たぶん、ここまでの疲労や緊張が、判断力を鈍らせていたのかもしれません。
「少しだけなら……」。そう思って受け取った小さな缶ビール。飲んだのは、わずか三口でした。
それからほどなくして、機内で配られた機内食を半分食べ終え、トイレで歯を磨いていたときのこと。ふと、ふらつきを感じ、「早く座らなきゃ」と通路を戻り始めたその瞬間、視界がくるくると回り出し、すっと意識が遠のいていきました。
気がつくと、機内後方のギャレーの床に倒れていました。倒れ方が幸いし大事には至りませんでしたが、肩や腕を強打し、立ち上がれないほどのめまいと吐き気に襲われました。
何度も飛行機に乗ったことのある私が、機内で突然失神するなど、まったく想定外の事態でした。しかし、後から冷静に振り返ると、その背景には「飛行機」という特殊な環境があると気づきました。
機内は、気圧が地上より低く、標高にしておよそ2000m相当の環境に設定されています。酸素分圧は通常より20%ほど下がり、血中の酸素飽和度も92~93%程度と軽度の低酸素状態になります。つまり、私たちの身体は見た目以上に「がんばっている」状態なのです。
そこにアルコールが加わるとどうなるか。血管拡張、脱水傾向、そして酔いの回りが早くなります。たとえ少量であっても、地上とは比べものにならない影響が出ることがあるのです。