この企画でとりわけ強烈な印象を残したのが、劇団ひとりである。そもそも「キス我慢選手権」がのちのちまで続く大ヒット企画に成長したのも、劇団ひとりのアドリブ芸があったからだ。
彼は即興演技の中で、シリアスとユーモアを巧みに使い分けながら、状況に応じて絶妙なセリフを繰り出し、「真剣にふざける」ことでナンセンスな世界観を成立させた。そこには芸人としての技術だけではなく、役者としての柔軟性と感受性も示されていた。
芸人でありながら、ここまで芝居の空気を読み取り、自分の立ち位置を正確にコントロールできる人物は多くない。劇団ひとりがその後、俳優や小説家・脚本家として活動の幅を広げていったことを思えば、「キス我慢選手権」はまさに彼の演技の原点と呼ぶべき場であった。
芸人が本能と向き合う笑いの根源
この企画が長く愛され、映画化もされるほどの人気を誇ってきた理由は明確だ。単なるお色気企画で終わらず、芸人が自らの本能と向き合い、真剣にバカを演じるという笑いの根源にある誠実さがあるからだ。どこまで真面目にふざけられるかという戦いに挑む彼らの緊張感が、視聴者に笑いと同時に芸人の覚悟を感じさせていた。だからこそこの企画は、単なる悪ふざけや下ネタを超えた「人間ドラマ」としての強度を持っていた。
佐久間氏は、このような「芸人のリアル」を掘り下げて笑いにすることが得意な演出家である。そんな彼が新たに手がける『デスキスゲーム』は、より自由に、よりダイナミックにその世界観を表現する場になるだろう。
劇団ひとりの意気込みも並々ならぬものであるに違いない。『ゴッドタン』という番組や「キス我慢選手権」という企画は、テレビにおける彼の代表作であり、出世作とも言えるものだ。その系譜を引き継ぐ新企画に臨むからには、自分の芸人人生を懸けて、本気で挑むという覚悟を持っているはずだ。
かつての劇団ひとりが見せていた「真剣な悪ふざけ」が、Netflixという大舞台でどのようにアップデートされるのか。かつての「キス我慢選手権」を知る人にとっても、知らない人にとっても、間違いなく興味深い内容になるはずだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)
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