B作(似)「そうか、じゃあしょうがねえけどよ。まだ若いからわかんないかもしれないけどな、お湯屋(おゆうや)にはそのお湯屋の決まりごとがあるから覚えときなよ」

私「ごめんなさい」

B作(似)「そんな謝んなくてもいいよ。これから気をつければいいこったから。風邪ひかないように熱い湯に入んなよ」

私「ありがとうございます!」

 ちょっと泣けてきた。またキツい「洗礼」を受けるかと思ったら、この大東京にも新参者を叱りつつも優しく諭してくれるB作(似)がいたのだ。B作(似)は熱い湯につかるとサッと飛び出して行ってしまった。カッコいい、B作(似)。

 私も湯を出てコーヒー牛乳かなんかをひっかけて、コインランドリーを覗いてみる。実家にいるときは使うことがなかったので興味津々だ。洗濯機の上に置きっぱなしの洗剤が、さっき無理やり押し付けられたのと同じメーカーのものだったのがイラっとしたが、明日からの洗濯もちょっと楽しみ。

 夕刻、帰宅して自分で蕎麦を茹でて食べてるとドアをドンドン叩く音がする。物騒なので台所の窓の鍵とドアのチェーンもちゃんとしておいた。ドアの覗き窓からおもてを見ると、さっきのB作(似)が立っている。

この街も大嫌いだ!!

 慌ててドアを開け「なんでうちわかったんですか!? さっきはすいませんでした!」と言うとB作(似)もちょっとびっくりしたようで、

B作(似)「あー、さっきのあんちゃんか!?……あのさ、読◯新聞なんだけどさ、3カ月どう?」

私「……すいません。さっき◯日新聞、ひと月とっちゃったんです」

B作(似)「そこをなんとかさ、これほら!」

 B作(似)よ、お前もか。洗剤を差し出すB作(似)。読◯よ、お前も洗剤か。お前らでっかい野球チーム、持ってんだろうが。内野自由席チケくらい持ってこいや。

 あー、◯売新聞も、朝◯新聞も、この街も大嫌いだ!!

 東京の馬鹿野郎!!

次のページ あの銭湯はとっくになくなってしまった