「ありがとうございます」とドアを開けると加藤鷹(似)はドアノブをグイッと引っ張り、ドアを己の身体で固定し、私の部屋の中を覗き込んだ。
鷹(似)「一人?」
私「はい」
鷹(似)「じゃ、これお祝い。気持ちだから。はい」
と、加藤鷹(似)は粉洗剤の箱を片手で私に差し出した。
「ありがとうございます」と私。
受け取っちゃうだろう、ふつう。
すると鷹(似)は「新聞とるでしょ? 学生さんなんだから。うち、朝◯新聞。とりあえず3ヶ月にしとく? どうする?」と低いトーンの声で捲し立ててきた。
あー、新聞の勧誘か。植田まさし先生のマンガで読んだことあるな。本当にこういう荒っぽい手口で無理やり新聞をとらせるなんて、実際にあるんだなぁ。
私「新聞読まないんでいいです」
鷹(似)「『いい』って『とる』っていうこと?」
「読まない」って言ってるじゃないか。なんで「とる」ことになるんだよ。文脈まるで無視か。
私「いえ、いりません」
鷹(似)「それ、どうすんの? 洗剤。もう受け取っちゃったよね?」
私「お返しします」
鷹(似)「いやいやいやいや、それはないんじゃないの? せっかく持ってきたのに! それは他人の思いを踏みにじる行為だろ!」
残念だなぁ……
いったい何を言ってるのだろう。新聞をとらせるダシに無理やりに渡したくせに「思い」もなにもないだろう。しかも洗剤ってなんだよ。「かりあげクン」に出てきた勧誘員は野球のチケットだったぞ。いまだったら上手く断れるだろうが、そのときの私は愚直にNOと言うしかすべがなかった。
私「ほんと、いりません。お金ないし」
鷹(似)「ひと月でいいからさっ!」
私「無理です。すいません」
なぜ私が謝らねばならないのか。
鷹(似)「……せっかく仲良くなれると思って来たのにそうやって無下に断られちゃうとこっちとしても切ないなぁ……。学生さんじゃわかんないと思うけど、いいご近所付き合いするには、思いやりも大切だよ。残念だなぁ……俺も近所に住んでるから、しょっちゅう顔を合わせると思うのに。お互いこれからも笑顔で『こんにちは』『こんばんは』のやりとりしたいじゃない? これじゃいい付き合いは出来ないなぁ……。ねぇ?」