
私はこれまで、この症状で病院を受診したことも、薬を飲んだこともありません。発作が起きたときにどう対処するか、自分なりのやり過ごし方を身につけてきたからです。とくに移住直後のアメリカでは、日常の小さな緊張が積み重なり、頻回に発作が出てくることもありましたが、目を閉じて、ベッドに横たわってゆっくりと深呼吸を繰り返すことで、発作は自然と解消していったのです。
そんな私にとって印象的だったのが、2024年に発表されたサルク研究所の報告[※1] です。研究者たちは、パニック発作に関与する新たな脳内回路を発見しました。PACAPと呼ばれる神経ペプチドが恐怖やパニックの引き金になる可能性があることが示され、これまで恐怖の中心とされてきた扁桃体とは異なるメカニズムが明らかになったのです。
同じ年には、呼吸が不安に与える影響に関する研究[※2] も注目を集めました。呼吸をコントロールする脳の領域が不安と深く関わっていることがわかり、ヨガや瞑想などの呼吸法が科学的にも有効であることが裏づけられました。研究者たちは、将来的に「ヨガピル[※3] 」のような新しい抗不安薬が登場する可能性を示唆しています。近い将来、不安障害をより明確に標的とする、新しいタイプの治療薬が生まれるかもしれません。
この2年ほどは発作に悩まされず
今、私は夫と犬とともに暮らし、日々の暮らしのなかに、安心できる居場所があります。もちろん、他人同士が同じ空間で生活していれば、すれ違いや小さな我慢が生まれることもあります。それでも、幸いなことに、ここ2年ほどは以前のような発作に悩まされることはありません。家族や住環境といった生活の土台が整ったことで、心もゆっくりと穏やかになっていったのだと感じています。症状の背景には、何かしらの「引き金」があり、そしてその影響を和らげてくれる「緩衝材」のような存在がある──それを、私は身をもって実感しています。
パニック発作は、多くの人にとって思いのほか身近なもの[※4] かもしれません。不安は、時に前触れもなくやってきて、自分の変化にすら気づけないこともあります。だからこそ、日常の中で自分の心の声に耳を澄ませること、そして身近な誰かの小さな揺らぎに目を向けることが、大切なのだと思います。
最新の研究は、私たちの心と身体の反応にはきちんとした理由があることを教えてくれます。もしあの頃の自分に声をかけられるなら、「ひとりで抱えなくていいんだよ」と、そう伝えてあげたいと思います。
【参照URL】
[※1]https://www.sciencedaily.com/releases/2024/01/240104122005.htm
[※2]https://www.nature.com/articles/s41593-024-01799-w
[※4]https://www.nimh.nih.gov/health/statistics/panic-disorder
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