
2016年に『青が破れる』でデビューし、2019年に『1R1分34秒』で芥川賞を受賞。その後も、2022年『ほんのこども』で野間文芸新人賞、2024年に『私の批評』で川端康成文学賞、『生きる演技』で織田作之助賞、今年は『私の小説』で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞するなど、目覚ましい活躍を続けている作家・町屋良平。
現在の日本文学を代表する作家の一人となった町屋良平から、新作『生活』が届けられた。
主人公の椿は、東京・代官山の古い一軒家で父親と暮らす20歳の男性。服が好きで、スタイリストを目指していたのだが、モチベーションが続かず、いまはファミレスでバイト中。料理、洗濯、掃除をこまめにやりながら、友達とおしゃべりし、恋人ができたりフラれたり、それをYouTuberとして配信したりと一見刺激的な日々を送っているのだが、社会に関わろうとする意識が薄く、自己表現や向上心もなく、ただただ生活することに時間を費やしている。それを象徴しているのが《夢もなければ人生設計もない。それでも、いまをいまなりに生きている》という一節だ。
「夢もなければ人生設計もない」主人公・椿の生き方
「これまでは、創作したり身体を動かす語り手を立てることが多かったので、そうじゃないキャラクターを主人公にしようと。モデルはいなかったのですが、自分自身を反転させた姿に近いかもしれないですね。私は創作のことばかり考えてきましたが、椿は創作にはまったく興味がないので。愛着と言いますか、“こういう人間になってみたかった”という思いもあります。
服に関心があるのは似ているところですね。小説家には珍しいタイプだと思うのですが、私はクラシックなものよりもコンテポラリーが好きで、服にもとても興味があるんです。男性のなかには“身体だけで自分を高めたい”という気持ちが強い人がいて、そういう人は内心でオシャレを馬鹿にしているような気がして。そういう風潮に少しムカついていたことも、この小説を書く力になりました。
