写真・図版(5枚目)| 韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは

 ただ今の日本の最大の問題は、賃上げが物価高の勢いに負けていることだ。名目賃金から物価の影響を除いた「実質賃金」は、3月が2.1%のマイナス。この2、3年を見ても実質賃金がプラスになった月は数えるほどしかない。

 物価の上昇に負けないようにするには、今後どれくらいの賃上げが必要なのか。山田さんは次のように分析する。

「物価は中長期的に平均で年2%程度で上昇するのが望ましいと考えられています。生産性は年に1%強は上がるでしょう。加えて、定期昇給相当分(賃金カーブ維持分)を2%弱とすると、合計5%の賃上げが必要です。大手だけでなく中小企業も5%は安定的に上げていくべきです。5%上がれば、実質賃金も上がっていくはずです」

 安定的に実質賃金を上げていくポイントの一つは、生産性の向上だ。企業はもうけが出ない不採算事業を整理し、成長分野への投資を加速させる必要があるという。

「そもそも日本の商品やサービスの質は高いといわれるが、こうした日本の良さは現行のGDP統計には十分反映されません。いいモノを作っても安く売る結果、いまのGDP統計には十分反映できないのです。価格を上げて輸出しなければなりません。日本のビジネスのやり方、考え方を変えなければなりません」

 大手企業が中小企業からモノやサービスを高く買って、中小企業に利益を移転していくことも重要という。日本企業の99.7%は中小企業だ。中小企業が賃金を上げられるようになると、日本経済全体の底上げにつながる。

 その時々で景気が悪くなると人件費を抑えないといけないときもあるかもしれないが、変動分は本来、残業代やボーナスでカバーすべきだという。

「日本の労働者は優秀だといわれています。仕組みを立て直せれば、生産性が上がり、『普通の先進国』として物価も賃金も上がっていくと考えます」(山田さん)

 コメの高騰に代表されるように、与党も野党も目の前の物価高に対応するための消費税減税や給付金などの議論が活発になっている。賃金がなかなか上がらず物価高に苦しむ人たちを支えることは大切だが、それと同時に、海外に負けない日本の成長力を押し上げる取り組みにも力を入れないと、長年続いた「一人負け」からはなかなか抜け出せない。

(AERA編集部 井上有紀子)

写真・図版(6枚目)| 韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは
こちらの記事もおすすめ 【ひと目ですっきり】日本の給料「一人負け」の実態 右肩上がりのアメリカは日本の1.7倍
[AERA最新号はこちら]