「東京で代表的な大手タクシー会社でも、今年の新卒採用の数はピーク時に比べて半減しています。タクシーは事故に遭う可能性もあるので危険だとか、『大学を出てまでやる仕事じゃない』とか。給与の問題よりも、むしろ仕事自体に魅力を感じられないのが問題だと思います」
タクシー運転手という仕事の、魅力。中澤さんがこのところずっと気になっている言葉がある。タクシー運転手は「誰でもやれる仕事」というものだ。その言葉と、今回タクシーの免許を「3日でも取れる」に変えようという方針は、中澤さんの中でつながるのだと言う。
負のスパイラルを懸念
「2種免許というのは、ある意味でタクシードライバーにとっての『勲章』だと私は思っています。一般のドライバー以上の運転の精度が求められ、そこをクリアしたうえで得たもの。それを『3日でも取れる』としてしまうと、『タクシー運転手なんて誰にでもできるんだよ』という方向のなか、勲章的なものの価値を下げることにつながると思います」
勲章の価値が下がれば、それを得たいという人は減り、ますますなり手がいなくなる。この点でもまた、「むしろ負のスパイラルに」という状況が生まれかねない。
「そしてそんな状況がこの先、どこにつながっていくか。『誰でもできる仕事なんだから』という流れで、昨年運用が始まった『日本版ライドシェア』(自家用車を利用して有料で乗客を運ぶサービス)を推進する動きとも、これは通底しているのではないか。考えすぎかもしれませんが、そういうふうにすら、思えてしまうんです」
では、多くの利用者がまず感じるであろう、「教習時間を減らして、安全面のリスクはないのか」という点はどうか。警察庁は今回、教習時間を減らした場合の影響を実験で調べたうえで安全上の問題はないとしているが、中澤さんは「懸念はもちろんある」と話す。
「1種免許で一定期間運転されていた方でも、2種免許を取るための教育をしっかりと受けることで、自分の運転の仕方の悪い点に気づき、安全について見つめ直すきっかけにもなる。教習時間が減れば教えてもらえることも減るので、技量面での懸念がないとは言えないでしょう。加えて大事なのが気持ちの部分です。勲章の話とも通じますが、『自分はしっかりとした教育を経たうえで2種免許を持っているんだ』という自負の部分。安全というものに対する気持ちの深さ。ここが実は大事なんです。『簡単に取れるよね』となれば『教習を受けても受けなくてもあんまり変わらないんじゃないか』という感覚も生まれ、安全面で当然、マイナスに働いてしまうと思います」
タクシーの仕事から離れても「ハートはタクシー業界に残してきた」中澤さん。「今もタクシーの現場で奮闘されている方々とは見解が異なるかもしれませんが」としつつ、こう心配する。
「地方都市でタクシーが不足している実態は否定できない。そこは大事な点。でもだからといって、安全性を無視したような施策で無理に運転手不足を補おうとすることには反対です。結局、タクシー業界にとっても、利用者にとってもプラスにはならないのでは。短期的な発想で目先の施策を行うのではなく、国にはタクシー業界の『産業としても魅力ある職場づくり』への手助けもしてもらえたら、と思います」
(AERA編集部 小長光哲郎)
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