「これが何を意味するか。つまり、半分以上は空走してるんです。たとえばバブルの時代は実車率が50%台で『金曜の夜はタクシーがつかまらない』などの状況もありましたが、今はバランスが取れた状態。そんななかで無理にタクシーを増やす必要があるのかなと」

 本気でタクシー運転手を増やそうとするなら、給与面も大事だ。しかし、そこも「裏目に出る」可能性があると、中澤さんは指摘する。

「運転手の給料減ってしまう」

「お客さんの『総量』って、実はそんなに増えていないんです。インバウンドが増えても、彼らは輸送面には比較的お金をかけないので、一部の観光地を除けばタクシー需要増にさほどつながっていない。お客さんのパイが決まっているなかで仮に今以上にタクシーが動くようになると、1台あたりに乗せられるお客さんの数は減り、1台あたりの売り上げは落ちます。そうなると、基本給+歩合で働いている運転手さんの給料は減ってしまうんです」

 運転手が増えて、タクシーの総量が増えることで運転手の給料は減る。それではますますなり手が減る負のスパイラルに陥りかねないと、中澤さんは言う。

「それなのに法制度を変えてまでタクシーの運転手を増やそうと。そんな必要があるかというと、私はないと思いますね」

 都市部でタクシー運転手が増えることによる、思いがけない負の側面。一方で、高齢化が進み、バスや鉄道など公共交通機関の減便も進むなどの状況を抱える地方では、タクシー不足が改善されれば大きな恩恵があるだろう。ただ、そこで中澤さんが「そもそも根本的に間違っている」と言うのが、「免許の取得時間を短くしたら、『タクシーの運転手になってみよう』という人が本当に増えるのか」という点だ。

「タクシー会社の募集広告では多くの場合、『2種免許取得費用 当社全額負担』などと謳っています。もし免許取得のための日にちが短縮されたら、教習所に払うお金がその分減り、経費の面で会社はありがたいでしょう。でも、『3日ならラクそうだから私もタクシーの運転手になってみるか』なんて思う人が増えるかというと、まず間違いなく、増えません。なぜか。タクシー業界に人材が集まらない理由は、別のところにあるからです」

 本当は、何がネックになっているか。中澤さんは「タクシーという産業が魅力あるものではなくなっている」ことがいちばんの問題だと指摘する。

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