スイス・ジュネーブであった米中協議の後、記者会見を開くアメリカのベッセント氏(右)とグリア氏(写真:ロイター/アフロ)
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 米中両国が互いに掛け合ってきた高関税を115%ずつ引き下げることで合意した。米中の激しい対立から一転。背景には何があるのか。AERA 2025年5月26日号より。

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「思いもかけなかった進展。米国は対中国関税を145%から30%に引き下げ、中国も125%から10%に下げる。米国の30%には(合成麻薬の)フェンタニル関連の20%追加関税が含まれているので実質同じく10%だ」

 中国メディアは日本と異なり、むしろ米中ともに関税率を10%に引き下げたことに注目して、5月10、11日の米中両国の協議の成果を強調した。

 米中の貿易衝突の悪化が避けられた背景の一つが、双方が送り出した交渉役だ。

 アメリカ側の交渉団長はスコット・ベッセント財務長官。ベッセント氏はトランプ大統領からの信頼が厚く、これは日本でも報道されている。また、実際、協議を担当しているのはジェイミーソン・グリア米通商代表部(USTR)代表で、その関連情報は少ないが、テクノクラート(専門知識をもった官僚)と思われる。

 中国側も同様だ。団長は何立峰(ホーリーフォン)氏だった。何氏は1985年ごろ福建省アモイ市で財政局長を務めたが、その時の副市長は今の共産党総書記習近平(シーチンピン)氏だった。後に何氏は国家発展改革委員会のトップになり、さらに2022年に筆頭副首相まで上りつめるほど、習氏からの信頼が厚い。

 一方、グリア通商代表部代表にあたる中国側のメンバーは、何と言っても李成鋼(リチェンガン)氏だ。李氏は肩書こそ商務部副部長だが、部長(大臣)クラスの重鎮である。北京大学で法律を学び、さらにハンブルク大学に留学してEU法と経済学の修士号を取り、商務部では公平貿易局副局長、条約法律局副局長などを経験してから、一時スイスでWTO駐在大使を務めた。米中貿易交渉にあたって急遽スイスから帰任して商務部副部長に任命され、またすぐスイスに派遣され、法律、世界貿易に精通するテクノクラートとしてアメリカとの交渉にあたった。

「商務部のなかでは屈指の法律、貿易関連の専門家。国内事情だけでなく、海外にも詳しい」と商務部の知人は口をそろえて言う。

 米中双方の団長はともに最上層部の信任があった。もっとも交渉力があるテクノクラートが第一線で協議した結果、短期間で成果を出せたと、中国の世論は見ている。(ジャーナリスト・陳言=北京)

AERA 2025年5月26日号より抜粋

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